エンジニアが屋上で家庭菜園

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謝豐隆さん

台南市出身・嘉義市育ち・台北市在住
華碩電腦股份有限公司 エンジニア46歳(1971年10月12日生まれ)

取材・文:吉岡桃太郎

公園や街路樹などの緑はあるものの、田畑と呼べるものは市街地ではほとんどみかけない台北。かつて台北101やSOGOのあるエリアには田畑が広がっていたそうだが、高層ビルがそびえる大都会に変貌を遂げた。そんな台北の市街地で家庭菜園を営んでいるのが、台湾中部の田舎町で生まれ育った謝豐隆だ。試行錯誤を繰り返しながら、マンションの屋上で8年以上も野菜やフルーツを育て続けている。(文中敬称略、以下同)


台北市内にもある市民農園

ここ数年、台湾の書店で家庭菜園の本をよく目にするようになった。その多くが日本の書籍を中国語に翻訳したもので、「家庭菜園」という日本語が中国語としても定着してきている感がある。食の安全が叫ばれる中、昨今の健康ブームも相まって、自宅の庭に家庭菜園を作ったり、市民農園を借りたりする人が増えているようだ。

一戸建ての少ない台北では、郊外の市民農園を借りて週末に手入れに赴くというスタイルが一般的だ。台北市内には内湖、木柵、北投などの郊外に「市民農園」が15カ所あり、管理費なども含めて毎月1000~2000元前後で10坪ほどの畑が借りられる。台湾では日本統治時代の名残で、土地の登記簿などでも土地の広さを表す単位として未だに「坪」が使われている。

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そんな台北で市民農園を借りずに自宅のマンションで家庭菜園をやっているのがエンジニアの謝豐隆だ。「とにかく自分で作った野菜が食べたいと思って。実用も兼ねた趣味ですよ。もちろん自給自足というわけにはいきませんが、台風の翌日なんかは値段の跳ね上がった野菜を買わずに済みます」

日本留学で始めた家庭菜園

謝豐隆は台湾南部の台南市で生まれ、嘉義市で育った。父親はプラスチック加工の工場を経営していて、畑ではサツマイモやトウモロコシが育てられていた。川で遊んだり、カエルを捕まえたり、畑で遊んだりして少年時代を過ごしたという。それが今の家庭菜園作りの糧になっているのかもしれない。

高校を卒業した謝豐隆を待っていたのは兵役の義務だ。今では兵役期間も短くなり、軍隊で訓練をしたり任務に就いたりするのではなく、市役所や消防署などの仕事を手伝う「替代役」というのもあるが、当時は高校卒業と同時に進路がいったん中断され、退役後に進学するか就職するかを選ばなければならなかった人も少なくなかったという。謝豐隆は知人の勧めで日本の大学に進学することを決めた。

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日本に留学した謝豐隆は食べ物のホームシックにかかる。「台湾の空心菜(ヨウサイ)やサツマイモの葉が恋しくなって」それでたまたま目にした亀有(東京都葛飾区)にある貸し農園に申し込み、15平米の畑の利用権を抽選で獲得したという。「空心菜の茎が伸びすぎて、隣の畑の人に叱られたことがあります。隣の畑にまで伸びてないのにどうしてかなと思ったら、種が隣の畑に飛んでいくかもしれないからとのことで、ビックリしました」

屋上の花壇を改造して家庭菜園

台湾ではマンションの屋上は最上階の所有者に使用権があるという暗黙の了解がある。今やると違法になるが、古いマンションやアパートの屋上にトタン屋根などの建て増しがしてあるのはそのためだ。謝豐隆が台湾に戻って台北で見つけた物件がたまたま最上階だったことから、引っ越ししてすぐに屋上の花壇に農業を営む友人に分けてもらった腐葉土などを混ぜて家庭菜園を始めたのだ。

これまでヘチマ、ミント、ニラ、ニガウリ、サツマイモの葉、トウモロコシ、ウコンのほか、パパイヤ、ドラゴンフルーツ、パッションフルーツなどを育ててきたという謝豐隆。日本ではヘチマはあまり食べないが、台湾ではポピュラーな野菜で、日本人の夫人が料理してくれるそうだ。また、ミントは乾燥させてミント茶を入れて娘や夫人と一緒に飲んでいるという。

謝豐隆はこれまでこうした野菜を育ててきて、植物にも人間と同じような危機意識があるのではないかと考えるようになったという。「短い種類のニラを何年も育ててたんですが、長い種類のニラの種をもらってその横に植えたら、これまでずっと短かったニラが急に長く育って、長いニラと同じ長さになっちゃって」また、パパイヤの実の大きさについても「根っこに釘を刺すと結構大きくなるんですよ。危機意識が働いているんだと思います。動物と同じで植物にも生存競争があるんじゃないでしょうか」。

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家庭菜園というと素人にはちょっとハードルが高そうに思えるかもしれないが、「サツマイモの葉は農薬もいらないし、育てやすいので初心者にオススメですよ。僕は実家のある嘉義で種を仕入れたり、友人から分けてもらったりしていますが、種を専門に売っている種屋さんもありますよ」。謝豐隆のようにマンションの屋上でというわけにはいかないかもしれないが、市民農園を借りるという手もある。市民農園の中には野菜の育て方を指導してもらえるところもあるので、初心者にはもってこいだろう。

(2017年10月号掲載)

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