プログラマーがパティシエに

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朱浚賢さん

新北市樹林區出身・在住  
Petit Mana店長   1982年12月7日(34歳)

取材・文:吉岡桃太郎

子供のころに抱いた夢。大人になるにつれて現実という波に揉まれて忘れてしまう人も少なくない中、その夢を着実に実現しつつある三十代の台湾人がいる。元プログラマーの朱浚賢だ。両親を説得し、収入の安定した職を捨て、留学してパティシエのイロハを学び、ワーキングホリデーでその技をさらに磨き、ついにスイーツのネットショップを立ち上げた。今は和菓子と洋菓子が融合した新たなスイーツの開発にも励んでいる。(文中敬称略、以下同)


アニメがきっかけで料理に興味

台湾ではアニメや漫画のことをまとめて「動漫(ドンマン)」という。台湾で出版されている多くの漫画が日本の漫画の中国語版で、『ドラえもん』、『科学忍者隊ガッチャマン』、『キャンディ・キャンディ』などの昭和のアニメも、〝昭和生まれ〟の台湾人にはおなじみだ。朱浚賢もご多分に漏れず「動漫」好きな少年で、小学4年生の時に『ミスター味っ子』のアニメを見てから料理に興味を持つようになったという。「料理って面白いなぁって思って」

中学に入ってからは勉強が忙しくなり、「動漫」には没頭できなくなるが、当時有名だった店のチーズケーキを食べて、料理に加えてスイーツにも興味を持つようになったという。「僕が生まれて初めて食べたスイーツですよ。自分でも作ってみたいなぁと思いました」。そして少年は将来パティシエになって自分の店を持ちたいという淡い夢を抱くようになっていく。

必死に勉強し、台湾の最高学府、台湾大学に合格した朱浚賢は、ようやくスイーツを食べる側から作る側にも回るようになる。「ずっと勉強、勉強でしたが、時間的に余裕もできたので、自分でスイーツ作りに挑戦しました。家族の朝ご飯も晩ご飯も僕が作るようになりましたよ」。家族のバースデーケーキも作るようになり、パティシエになって自分の店を持ちたいという思いも強くなっていった。

両親の反対で夢はお預けに

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台湾は日本以上に学歴社会だ。大学卒業後は両親の意向もあり、台湾大学の大学院に進学。卒業したらパティシエになろうと思っていたのだそうだが、「両親からパティシエでは食っていけないと言われまして。就職先を斡旋(あっせん)してくれました」。それからは毎日朝7時から、遅い時では深夜までパソコンと向かう日々が続いたという。半年ほどで上海勤務となり、中国での生活に慣れず帰任を希望して1年ほどで台湾に戻ってくる。

勤務時間が長すぎたことから別の会社に転職したが、そこでもパソコンのモニターと睨(にら)めっこする日々が続く。「プログラマーの仕事ってほとんど人と接することがないんですよ。それに疲労気味になって。それでパティシエよりもこの仕事の方が大変だよって両親に何度も言い聞かせてみました」。そして両親も徐々に朱浚賢のパティシエになりたいという思いに理解を示すようになっていったという。

そんな時に留学フェアに足を運んだ朱浚賢は、「どうせやるなら本格的に勉強しようと思うようになりました」。留学を決意し、両親を説得し、1年間下準備を進め、安定した職を捨て、30歳を迎える年についに夢への第一歩を踏み出した。


スイーツ店はネットショップから

辻学園調理製菓専門学校(大阪府北区)の製菓パティシエ科で1年間パティシエのイロハを学んだ後は、ワーキングホリデーのビザで京都の和菓子屋、ケーキ屋、大阪のスイーツ店などで1年ほど修行を積む。「びっくりしたのが、日本人は母の日や父の日にケーキをあまり買わないことです」確かに台湾では母の日や父の日にはレストランも予約が取りにくくなる。ちなみに台湾の父の日は8月8日だ。

帰国して業務用の調理器具などの調達の目処(めど)が立った2014年秋、朱浚賢はついにスイーツのネットショップ「Petit Mana」を立ち上げる。親戚の会社のオフィスの一角を借りた。「『Petit』はフランス語で小さいという意味です。『Mana』は僕が作った言葉で、抹茶とナッツの頭文字です」。そこには朱浚賢の和菓子と洋菓子への思いが込められている。

朱浚賢のスイーツは材料にこだわっている。「有機栽培の砂糖、(抗生物質を使っていない)石安牧場の卵、フランス産の小麦粉を使っているので原価率が高いんです。カカオ豆にもこだわっています」。また、台湾では乳製品や砂糖は輸入品に頼っている部分があり、材料の調達が日本に比べると難しいのだという。「欧米から輸入した乳製品は賞味期限を延ばすために添加物が入っていたりします。僕は日本製の添加物が入っていない物を使うんですが、値段も高く賞味期限も短いので仕入れのやりくりが大変です」

和菓子と洋菓子が融合した創作スイーツの開発にも積極的だ。「抹茶が好きなので、抹茶を使っていろいろ試しています」。宇治丸久小山園の抹茶を使ったフランスタルトもその一つだ。

今はネットショップで注文を受けてから作って届けるという形を取っているが、「いずれは店舗を構えて、お客さんと直(じか)に接して、スイーツの良さを多くの台湾人に知ってもらいたいですね」と次の夢のステージに向かってスイーツ作りに励んでいる。

(2017年12月号掲載)

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