リーマン・ショックを契機に投資の専門家として活躍

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李政諺さん

台北市生まれ
証券アナリスト35歳(1982年生まれ)

取材・文:高橋真紀

きちんとセットされた髪に、スーツをきっちり着こなした李政諺は、礼儀正しく名刺を差し出した。証券投資顧問の会社に勤める彼の仕事は「証券分析師」、つまり証券アナリスト。正式名称は「國家合格證券投資分析人員」。台湾の国家資格を持つ者だけが、この肩書きを名乗ることができる。

学生のころから経済や投資に関心があったという。高校時代には商才を発揮して、オリジナルの通学かばんを作って販売していたこともある。台湾大学では政治を専攻していたが、在籍中に同大の証券研究サークルに入ったことから興味が深まった。大学を卒業し、兵役を終えてから株を買い始めたのだが、本腰を入れるようになったのは2008年。リーマン・ショックで株価の大暴落に遭遇し、自ら損をしたことで本格的に投資に向き合うことになった。「お金についてより深く考えるようになりました。自分のお金がどうやって誰のところに行くのか、真剣に研究するようになったんです」。

大学在学中には交換留学生として北海道大学で学び、日本語検定1級も取得している。日本の企業に勤めてみたいという気持ちが強く、兵役後に就職したのは、日系企業だった。

「でもやっぱり投資の仕事がしたいと思い、その会社は辞職しました。小さな投資会社を見つけて3年ほど勤務し、今の会社に転職して5年目になります。証券会社にいる人は、大学で経済を学んだ人が多いので、僕はちょっと違うというか、少数派ですね」

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証券アナリストの多忙な1日

証券会社の主な仕事といえば投資家に代わって株の売買を行うことだが、その内容は複雑だ。加えて証券アナリストとしての仕事は、さらに多岐にわたる。当然のことながら、株の売り買いを判断するには事前の情報収集が肝になる。一つの株式を売買するだけでも、世界経済の動き、さまざまな業界の変化、お金の流れ、企業の経営状態などあらゆる状況を把握しておかなければならない。

台北101ビルの中にある証券取引所で取引が行われるのは午前9時から午後1時半まで。李政諺は朝7時半には出社し自分のデスクに座る。「この業界はちょっと特殊なんです。外資系の証券会社だったら、6時には出社しているはずですよ」。

取引が始まるまでの1時間半は、大きく分けて三つの準備に費やす。一つ目は、昨夜欧米の株式市場がどのような状況だったか確認すること。次に国際ニュースをチェックすること。これらの情報が当日の株価に影響するからだ。最後に台湾内で起きたこと、特に政府の発表などを確認する。世界の動きに一通り目を通すにはざっと1時間以上かかる。台湾時間の午前8時には、日本と韓国などアジアの証券取引所が先にスタートするので、欧米の影響を受けてどのように変化しているか確認するのもルーティンワークだ。それが終わるとようやく本番。取引が始まれば休む間もなく株価の動向に目を光らせなければならない。1時半になると、手元の株式を保留するのか売却するのかなど、アナリストの意見を基に顧客が決断を下し、ようやく1日の取引が終わる。

証券会社での仕事はこれで終了だが、李政諺の1日はまだまだ終わらない。まず取引が終わると各種メディアから電話がかかってくるそうだ。「今日の株式市場はどうだったか、明日以降どうなるか、投資家はどうすべきか」などの質問に答える。こうした電話取材以外にも、財テクに関するテレビ番組でコメントしたり、雑誌のインタビューを受けたりと、メディアの用意したテーマに沿ってアナリストとしての考え、意見を述べるのも重要な仕事だ。本誌の取材中も非常にわかりやすく理路整然と話してくれた李政諺だったが、「きっとメディア出演で訓練されたんでしょう」と聞いて、なるほどと思った。

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小標気分転換は日本旅行

企業を訪ねて説明会を行ったり、財務状況を分析したりするのも仕事の一つである。財務表やグラフを見て状況を話すことは誰にでもできるが、そこから将来性を見通す力が証券アナリストの値打ちとなる。

「証券アナリストの仕事は、言ってみれば顧客や取引している会社がお金を稼ぐにはどうしたらいいのか、薦めた株が上がるか下がるかで大きく評価が分かれる。もちろんお客さんから文句を言われることもあります。これはかなりプレッシャーのかかることなんですよ」

午後の仕事が終わった後も週末も、絶えず情報収集が必要だ。早い時間に帰宅することができても、結局いつも就寝は12時ごろになるという。台湾には現在数十の証券会社があるそうで、同業者で食事をしながら情報交換することも多い。プレッシャーがかかる上に、実質的な拘束時間がかなり長い仕事なのだ。

気分転換は食べること。台北市内でいつも牛肉麺を食べ歩いている。日本の風景や食べ物が好きで、年に2、3回日本へ旅行に行くのも大事なリフレッシュ方法となっている。深夜バスを使って、四国以外はほとんどの場所に行ったことがあるそうだ。特に住んでいたことのある北海道には数多く訪れていて、礼文島、利尻島も旅した。稚内市では路上を走るキタキツネを見た、と楽しそうに教えてくれた。

台湾の人たちはそれほど投資に積極的ではないそうだ。銀行の金利は決して良くないが依然として銀行に預ける人が多く、または投資をする余裕がなかったり、決して多くはない収入からリスクを背負って投資をしようという考えが生まれにくい。だが投資で成功するには、「自ら学び、研究する姿勢が欠かせない」と李政諺は言う。彼が長年研究して出した結論はとてもシンプルだ。「大事なのは世界で何が起きているのか知ること、分相応の投資をすること、そして想定外の損失が出たら自分の考えを修正し、時には見切って手放すこと」。世界を知り、己を知ることは何の分野においても基本なのである。

将来的にはもう少し自由な時間を手に入れたいと語る李政諺。独立を考えているのか、と水を向けると、さらりとこう答えてくれた。

「人生にはあらゆる可能性がありますからね。能力、実力があればチャンスは自然にやってくる、成し遂げられると思っています」

(2017年7月号掲載)

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