第41回 病友の話

wkino_41_fin

のコラムのタイトルにもある「友」の文字。中国語にはやたら、この「友」という文字が登場します。

たとえば「球友(チウヨウ)」とか「牌友(パイヨウ)」とか。ゴルフやマージャンをいっしょにやる仲間、というニュアンスです。

仲間であるということを強調するために、あえて「友」という文字を使うのは中国語らしいというか、わからないことはないんですが、たかがいっしょにゴルフやマージャンをやったからって、即友達認定なんてのも、ぼくからすると何だか微妙な距離感です。

さらにホームページの閲覧者を指す「網友(ワンヨウ)」なんて言葉になると、違和感が増大。だれと友達なんだかよくわからない。

そんな中で、いちばん理解に苦しむのが「病友(ビンヨウ)」です。

病院のホームページなどで見かけるこの言葉、簡単にいえば患者のことです。それを、どういうロジックか「病友」と呼ぶ。ニュアンス的には「病気仲間」? そんなの、みんな絶対になりたくないと思うんですが……。


ころで「病友」ではありませんが、最近風邪をひきました。咳が相当ひどくて、しかもしつこいぐらいによくならない。こんなときに困るのが、市内バスとかMRTとか公共の交通機関を利用してるときです。

満員の乗客の中でコホンとやると、何故か無言のうちにみんなの視線がこちらに向いてるような気になります。そこで治まればまだよくて、みんなの視線も自然消滅していくんですが、このあとゴホゴホと連続でやったりすると、非常に気まずい状況になります。

「こっちに近寄るな」とか「マスクぐらいして来いよ」とか、聞こえるはずもない声が耳元で聞こえてくる。そうなると、もう次の咳はできません。すごいプレッシャーの中で絶対にしないぞと我慢するんですが、のどの奥が痒くて耐えられない。で、何故か急に「ここ、空気が最悪」と気になり出したり。下車駅に着くまでの間、地獄のひとときを過ごすことになるのです。


くの場合、風邪をひいても、よほどのことがない限り病院へは行きません。というか、体だけは丈夫なほうで、これまで風邪をひくということがほとんどなかったし、ひいたとしても晩早く寝れば、翌日にはよくなってるケースがほとんどなので、要は病院に行く必要がなかったのです。

ところが、今回の風邪は違いました。

ひいたかなと思ってからすでに一週間、いつもだったらとっくに治ってるはずなのに、微熱がひかない。その間、咳は止まらない。

しかたなく、友達に紹介してもらった診療所に行きました。

受付を済ませて待合室で待っていると、そこには椅子に座った患者が何人も。みんな視線を下に落としたまま、目は手に持ったスマホの画面をずっと追っています。

1、2、3、4……。数えてみると全部で12人。12人が小さな待合室で、黙って指だけを動かしてる光景は異常な感じさえします。

すると、その中のひとりがコホンコホン。ほかのひとりもゴホン、ゴホゴホ。

自分もここ数日、公共の場では人目がはばかられて出せなかったのと同じ音が聞こえてきました。何故かおかしな親近感。

そのうち、あちこちでコホコホ、ゴホゴホ。だれひとり言葉は発していないものの、まるでみんなで会話をしているような雰囲気です。

「コホコホ、ゴホゴホ」
「ゴホンゴホン」
「ゴホッホッホッ」
そして、それを聞きながら、「病友」という言葉の意味を実感したのでした。

(2017年6月号掲載)

広告