第44回 台風休み

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風の季節到来。

台湾では強大な台風が上陸しそうになると、「停班(ティンバン),停課(ティンコー)(出勤、登校禁止)」が発令されて、前日の晩か遅くとも当日の朝早くにはテレビのニュースやインターネットで告知があります。

もう30年近く前のことになります。当時ぼくは台北のある大学のセンターで日本語を教えていました。いつものように朝いちばんで出勤すると、正門が開いてない。「おかしいなぁ」と思いながら門の前で待つことしばし。ところが、門は一向に開く気配なし。それどころかセンターの職員も学生もほかの先生も、だれひとりやって来ない。

始業時間になったころ、管理人のおじさんが出て来たので、ぼくはすかさず聞きました。

「どうして門が開いてないの?」

「台風休み。きょうは授業ないよ」

一瞬何のことかわかりませんでした。

まずは多少風が強かったものの、雨も降ってないし、台風というイメージが全然湧かなかったこと。それからもうひとつ。「台風休み」とは一体何なのか。つまり、どうして台風で休みになるのかということです。たしかに中学生のころ、台風警報が発令されると学校に行かなくてもいいというのはありましたが、仕事が休みになるという話は聞いたことはありませんでしたから。

それから何年も経って、この経験をある日本人駐在員に話したことがあります。すると彼は興奮気味にこういったのです。

「それ! わたしもあります」

彼の話によると、台湾に派遣されて1年目の夏、強大台風が上陸して暴れまわっていました。ぼくと同じように台風で仕事が休みになるという発想のなかった彼は、大雨強風の中を全身びしょ濡れになりながら出勤したそうです。ところが、会社にはだれも来てない。

――どうして?

大きな疑問を抱えながら、彼の奮闘は水泡と帰したのでした。


風休み」でおもしろいのは前日です。

強大な台風が来るらしいといううわさが流れると、会社では事務所の空気がちょっとざわつきはじめます。

「もしかしたら臨時の休みになるかも」とわくわくする人、「今から期待してもどうせ発令は夜中だろうし」と冷静に構える人、「もう絶対休みだ」と決めつけてすでに休みのモードに入る人。いろんなタイプはありますが、みんないっせいにそわそわしはじめます。そして何度もインターネットで天気予報をチェックしながら「まだか、まだか」と首を長くして発令を待つのです。

そしてそんなとき「停班,停課」が発令されたりすると、すぐにだれかが見つけて拡散。情報は瞬く間に広がって、事務所の中にちょっとだけうれしい空気が流れたりするのです。


て、「台風休み」となった日、みんなどうしてるかというと、たいていは外が暴風雨なので家の中で避難。これが普通のパターンです。

ところが、たまにですが、空振りがあります。前日の早い段階で「台風休み」となったものの、そのあとで台風が逸れてしまったりしたときです。「台風休み」とはいうものの、天気は悪くない。これは最高のラッキーです。神様が一日余分に休みを与えてくれたようなものです。

こんなとき、家で避難してる人もいますが、出掛ける人も少なくありません。で、KTV(カラオケボックス)とかは満員の状態。みんな楽しくカラオケに興じるというわけです。

ただ、「台風休み」なのに、どうしてKTVが営業してるのか? ここのところは疑問なんですが、ぼくと同じこと思ってる人、結構いるような気がします。

(2017年9月号掲載)

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