第4回    台南市外交顧問、Mr.拉麺経営 野崎孝男氏

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Profile

1974年、東京生まれ。都政新報記者。読売テレビディレクター、2003年から練馬区議(無所属)1期。07年12月、台湾大学留学。台北市で創新美味股份公司を設立、ラーメン店「Mr.拉麺(ミスター・ラーメン)」をオープン、14年、台南市にも進出し、後に転居。天丼店も開始。2016年6月に台南市の外交顧問となる。

Mr.拉麺(ミスター・ラーメン)
www.facebook.com/misterramen

取材・文:迫田勝敏/写真:李奕瑲(KITO)

日台交流は日本のやり方を押し付けないこと

台湾に来て10年。台湾大学で学びながら、庶民向けのラーメン店を開業。利益の一部をボランティア活動に回し、台湾大学に奨学金を提供するなどしている日本人がいる。野崎孝男さん(43)。「なぜ、そこまでするの?」と聞くと、「台湾への感謝」と言う。台湾への熱い思いが、台湾の友人たちから厚い信頼を得て、推されて昨年から台南市の外交顧問に招かれた。そこでもまた日本と台湾の絆を強くするために無給で奔走している。


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台南市恒例の「国際芒果節(マンゴー祭)」が6月24日、台南市大内区の走馬瀬農場で始まった。開幕式に先立ち農場の会館で台南市と静岡県富士宮市が友好交流都市協定に調印した。壇上の頼清徳・台南市長が台南市政府の局長ら出席者を1人ひとり紹介し、最後に「外交顧問の野崎孝男です」と紹介した。野崎さんは協定調印の交渉ですでに富士宮市側とは顔見知り。手を振って拍手に応えた。

留学、起業、台南市政府の顧問と、野崎さんの10年の軌跡は激変に次ぐ激変だが、それ以前から波乱が多い。「実は、高校は2度中退しているんです」と野崎さん。メディアの世界から政界に足を踏み入れたが、「区議時代、夜のお付き合いはしなかった」とも。夜は何を? 「夜は明治大学の大学院に通っていました」。政治の世界の体験が、行政への向学心に火を付け、台湾大学法学院研究科(大学院)留学となった。

感謝の気持ちからラーメン店起業

留学とラーメン店とは結び付かないが、野崎さんの思考は極めて明解。当時は日本のラーメン店が相次いで台湾進出したラーメンブームだったが「日本の値段に比べて高すぎる」。野崎さん自身、台湾からの奨学金で留学し、奨学金合計は5年間で150万元を超えた。「苦しい時もあったけれど、奨学金のおかげで博士課程まで進学できた。そのお礼の意味で、学生たちが1時間のバイト代で食べられるラーメンをと考えた」。

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友人の支援を得て「Mr.拉麺」(ミスター・ラーメン)の看板を掲げた。定価は一杯99元(現在は110元)で有名ラーメン店の半分以下。1号店は補習班(学習塾)が集まる台北駅前、さらに台湾大学近く。その後、「台北は東京と同じような感じで台湾らしさがない」と台南に進出、自宅も移転、今では台北、台南に6店舗、今年から天丼店も始め、すでに2店舗、秋には台北でも開く。

Mr.拉麺はもちろん利益獲得が目的だが、それだけで終わらない。獲得した利益を台湾に還元することで感謝の念を示す。だから低価格を貫き、東日本大震災の3・11にはラーメンの「買一送一」で感謝セール。昨年の台南地震では現場で炊き出しもした。そんなボランティア活動を地元メディアが何度も報道したこともあって台南市の外交顧問を頼まれた。

気になる上から目線の日本の姿勢

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民から官の日台交流の現場に入って日本側の姿勢に気になることがある。3・11で台湾からの義援金が世界一だったこともあり、台湾を訪れる地方自治体や各級議員が増えた。「友好協定を結びたい」「市長に会いたい」と要望はきりがない。それ自体悪いことではないが、協定を結んでもその後の交流があまりない。極端に言えば、市長に会い写真を撮ってお終い、協定を結ぶことが目的になっている。台南市が望むのは交流の継続だ。

「市長面談のルールを作ろう」と野崎さんは市政府内で呼び掛けた。面談するのは県知事か政令指定都市の市長等。すると日本側からは「台南市は冷たくなった」との声。しかし台南市からすれば、忙しい中、市長が会っても、その後の交流がないのでは会う意味がない。日台交流の間で汗を流している野崎さんは「日本は台湾に対してどこか上から目線の印象」が拭えない。

1年余りの外交顧問の経験から野崎さんはこう思う。台南側にも問題がないわけではないが、「交流の際にお互いの文化、生活習慣、考え方を尊重し、日本のやり方、文化、考え方を押し付けないことが大事だ」。

野崎さんは「Mr.拉麺」の店は一種の独立採算制。店の利益が増えれば店員の収入も増える。だから店員は意欲も出る。売り上げトップ台北公館店の店長は月収9万元。「みんなが自分の家を持てるようになればいい」。野崎さんのいう台湾への感謝は言葉だけでない。

(2017年8月号掲載)

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