第48回 犬の話

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年は戌(いぬ)年です(台湾では2月16日、旧暦の正月が来るまではまだ酉(とり)年なんですが)。というわけで、きょうは犬についてのお話です。

我が家で犬を飼いはじめたのは今から12年ほど前のこと。当時は台北でペットブームともいえる現象が起きていて、雨後の筍のごとくペットショップがあちこちにオープン。ウインドーに並ぶトイプードルやダックスフント、ロングヘアチワワなんかに数万元の高値がついていました。

飼いはじめるきっかけは、「いい子がいたら教えて」なんてペットショップの店員にいったことです。ぼくとしては半分冗談のつもりだったんだけど、店のほうではそんなふうにとらえてくれず、ある日ほんとに連絡が来たのです。

で、ぼくとしてもいった手前上、無視もできず、女房とふたり見るだけでもということで行ってみると、そこにいたのは生後4カ月ほどのトイプードル。天真爛漫なまなざしでじっとこちらを見ていました。

これはヤバい。そう思って、すぐにその場を立ち去ろうとしたのですが、女房のほうがすでに飼う気満々、犬のベッドとか服とかを手に持ってました。さらによくないことに、この日ぼくの銀行口座には原稿料としてまとまったお金が入っていた。

そんなわけで、我が家に家族が増えることになってしまったのです。


時の台湾は、いってみればペットを飼うことについての黎明期のような時代で、ペットとの共同生活に社会が試行錯誤しているような状態でした。

だからペットを連れて行ける場所についても明確な区分というものがなくて、すごく曖昧。その恩恵を受けてか、うちの子もいろんなところへ行きました。

たとえば、レストランとかコーヒーショップ、焼き肉屋にも行ったことがあります。バスやMRTに乗ったこともあるし、コンサートに行ったこともあります。それに友達の犬の中には映画館に行った子もいたし、ほかにもデパートの中で大型のゴールデンレトリバーがのしのしと歩いているのに遭遇したこともあります。

こんな人犬共存の空間を眺めながら、「台湾って大らかでいいなあ」、なんて思ったものでした。

ところが、しばらくすると、あちこちに「犬だめマーク」が登場します。察するところ、いろいろ問題があったのでしょう。すると日本人の性(さが)か、どこなら犬を連れて行ってもかまわないのかが急に気になります。

「もしもし、犬を連れて行ってもかまいませんか」

市政府とか中正記念堂とか、管轄機関を調べて片っ端から電話をかけるわけです。

ところが、そんな電話など受けたことがないのか、担当者もどう答えていいのかわからない様子。で、しつこく聞くと、みんな逃げるように電話を切ってしまいます。

ただ、こういう場合はだいたい大丈夫でした。本当にだめなときは、「だめだ」とはっきりいわれます。ちなみに、即座に「だめだ」といわれたのは動物園と植物園。納得です。


は一時期と比べて、ペット熱は少し冷めたように思います。その代り、ペットを飼うという習慣はすっかり定着、いろいろなマナーも出来上がって、人も犬も共存できる社会が確立されたような気がします。

休みの日の夕方など、公園へ行ったりすると、愛犬を連れて散歩する人たちの姿をたくさん見かけます。とても平和な光景です。そんな中、うちの犬も、もうおばあちゃんになっちゃったけど、みんなに交じって楽しそうにやっています。あと何年続くかわからないけど、できるだけ時間を作って連れて行ってあげたいです。

戌年のはじまり、ふと思ったことでした。

(2018年1月号掲載)

 

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