除夕(旧暦の大みそか)が近づくと思い出すことがあります。
もう遥か昔の話なんですが、友達と夜市へ行ったときのことです。別にこれといってほしい物があったわけじゃないんですが、当時はよくこんな感じでぶらぶらと夜市へ出掛けてました。
メインストリートは大勢の人があふれかえっていて、さらに正月を迎える雰囲気もくわわって、独特なにぎわいを見せていました。そんな中、ぼくたちは屋台の鍋焼きうどんを食べたり楊桃汁を飲んだり。で、いつの間にか時間は過ぎて、気がつくと深夜の2時か3時。これもときどきあることでした。
「店仕舞い、はじまったね」
「そろそろ帰るか」
人の数も少なくなった道端でそんなことを話していると、商品の服を片付けてる露天商のおじさんから声を掛けられました。
「どうだい。安くしとくよ」
よく聞くと、おじさん、きょうで一年の仕事納めだとのこと。正月前に少しでも現金がほしいから買ってくれというのです。
ぼくからしてみると、安くしてくれるといっても特に服がほしいわけでもないし、買わなきゃいけない義理など何もなかったんですが、「正月前だから現金がほしい」というおじさんの事情に何となく共感。結局2枚ほど買うことに。おじさんにとってはその年を締めくくる最後のお客さんとなったのでした。
一方で年初めにはこんなこともありました。
友達が数人、我が家に来てマージャンをやることになったんですが、うちには真四角のテーブルがない。ということで急遽、テーブルを買いに行くことに。
正月休み最中の家具屋街をとことこ歩いていくと、シャッターを閉めた店が多い中、何故か一軒オープンしてる店がありました。
「マージャンができるテーブル、ある?」
「これとか、どう?」
店主のおばさんがすすめてきたのは、大きさが変えられる可動式で、脚の部分が曲線になってるおしゃれなテーブルでした。
ぼくとしては、夜市の屋台に置いてあるような、折り畳みの簡易式で十分だと思っていたので、「さすがにこれは立派すぎるよ」と断ったのですが、おばさん、耳を貸さずにこういいます。
「これ、イタリア製だから、物は絶対にいいから」
「いや、そんなにいいのはいらないんで」
そんな攻防が繰り返されたあと、おばさんはさらにひと言。
「じゃ、儲けは度外視で安くしとくから」
商売人の方たちはたびたびこんなことをいいます。だから、ぼくも適当に聞き流そうとしたんですが、おばさんもなかなか引き下がらない。で、よくよく話を聞くと、こういうことだったんです。
実はおばさんのお店、きょうが新年の開店初日。で、ぼくは最初のお客だったんです。おばさんいわく、その年最初のお客に売れないと一年中売れなくなってしまう。いってみれば一種の縁起担ぎだったのです。
さて、そういわれると、買わないっていうのも気が引けます。ぼくのせいでおばさんの一年の商売が悪くなるかもしれなんですから。で、結局買ってしまいました。
おじさんから買った服も、おばさんから買ったテーブルも、正確な値段は覚えていませんが、おそらく超格安だったと思います。しかも、「これはお得! おれはツイてる」レベルの。でなきゃ、買ってないと思います。
ところが、おもしろいことにいくらで買ったのかは覚えていません。ただ、それを買ったときの状況だけが鮮明な記憶として、ずっと頭の中に残っています。
ちなみに、そのとき買ったテーブル、今でも現役で活躍しています。