第51回 冷たいお水

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本に帰国したとき、いつも思うことがあります。レストランでも、コーヒーショップでも、ラーメン屋でもガラスのコップに入ったお水は絶対に冷たいということです。

まあ、日本ではそれが当たり前で、お水の中には氷が入ってないとおいしくない。というか、冷たくないお水なんか飲んでも体がシャキっとしません。

ところが、台湾では飲食店で冷たいお水が出て来ることは稀(まれ)で、たいていがぬるい水。ぬるま湯です。こういうのは中国語だと「温的(ウェンダ)」といって、それなりの地位を保っているんですが、ぼくにはどうも慣れない。お水はやっぱり冷たくないとお水じゃないと思ってしまうのです。

最近では少なくなりましたが、ひと昔前はビールの冷えてないのもときどきお目にかかりました。お水の冷たくないのも許せませんが、まだ百歩譲って何とか受け入れたとして、ビールのぬるいのは耐えられません。

キン冷えのを期待してビールを注文すると、やって来たのは常温ビール。のどを通るときに、生暖かい不気味な感触。

こんなのに払う金はないと思って、店員に「冷えてるのはないの?」と聞くと、「ありません」と即答。しかも、悪びれている様子は全然なくて、中には氷を持って来るケースもあります。ぬるいビールと氷の入った薄いビール。台湾で究極の二者択一を迫られる経験をした方は、ぼくのほかにもいるのではないかと思います。


方で、こっちが熱いのを期待しているときに、それを見事に裏切ってくれるケースもあります。

日本料理のお店でお茶が出てきます。でも、一口飲んでみると、ぬるい。

熱くて飲めないようなのを持って来いとはいいませんが、それでも生ぬるいお茶を飲まされた日には、ぬるいお水と同じで何だかシャキっとしない。かなりのストレスが溜まります。

お茶だけじゃなくて、味噌汁がぬるいこともあります。生ぬるい味噌汁は飲んだ後でどんな反応をすればよいのか、リアクションにも微妙なところがあります。さらに、この前なんかは、ぬるいお茶のお茶漬けを食べました。お茶漬けは熱くてやけどしそうなのをふうふうと吹きながら食べるのが醍醐味だと思っているぼくからすれば、これはもう問題外です。

こういうのを台湾の人たちはおいしいと思うのでしょうか。基本的な味覚の問題ということになるのでしょうが、これにはどうしても好奇心が湧いてきます。


いうわけで、ここのところを台湾人の友達に聞いてみました。ぬるいお水についてどう思ってるのか。すると、こんな答えが。

「それは日本がおかしいよ。冬の寒い日でも冷たいお水が出て来るんだから。コップには氷も浮いてるし」

冷たいお水には即反対でした。で、その理由を聞いてみると、「こういうのを飲むと、体によくないんだよ」とのこと。

たしかに台湾には昔から医食同源の考え方があって、体によいものを食べて、健康を維持しようというのが一般に広く伝わってます。そうなると冷たいお水はナンセンスということになるのでしょう。

まあ、わからないでもありません。ただ……、それをいうなら「麻辣火鍋」とか、絶対に体によくないと思うし、あんなに油をいっぱい使う中華料理ってのも、どう見ても医食同源に反してると思うんですが……。そこのところはどうなんだろうと気になったりするのです。

(2018年4月号掲載)

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