莊凱勛 キャッシュ・チュアン

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作品ごとにスケールアップ!活躍を広げる個性派俳優

昨年、サスペンス映画『目撃者』(邦題:目撃者 闇の中の瞳)で金馬奨と台北映画祭で最優秀主演男優賞にノミネートされた莊凱勛(キャッシュ・チュアン)。長いキャリアの中で培われた確かな演技力で、脇役から主役まで幅広い役柄をこなし、近年は吳慷仁、黃健瑋と共に「台劇新三強」(台湾ドラマ新三強)とも称される大活躍中の俳優です。今回は、主演した日台共同制作ドラマ『紡綞蟲的記憶』(フズリナの記憶)を中心に、役作りや俳優としての信念についてお話を伺いました。

取材・文:吳柏翰(編集部)/写真撮影:彭世杰/メーク:JimyWu (Backstage)/ヘア:Cubex eva/スタイリスト:Chenghan/衣装協力:H&M
取材協力:CW 巧克力人文咖啡
住所:台北市松山區八德路三段25號
電話:02-2577-2238
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─最新作のドラマ『紡綞蟲的記憶』(フズリナの記憶)はネット配信だそうですね。

「『紡綞蟲的記憶』というアプリをダウンロードすれば、スマートフォンで見られます。搭載ソフトは新しく開発された『i・active』、台湾だけでなく海外でもすでに特許を取っており、非常に画期的なシステムを持っています。例えば特定のキャラクターのシーンだけを選んで見たり、その俳優が着用している衣装や小物を購入したりすることが可能です。また各シーンのロケ地情報もすぐわかるようになっています。ちなみにテレビでの放送も近いうちに始まる予定です」

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─まだ見ていない日本の読者にどのようなストーリーか簡単にご紹介いただけますか。

「主人公は、望まない仕事を押し付ける親の抑圧から逃げるため、実家を出て日本に住むことにしましたが、ある縁で再び故郷の台湾に戻ります。台湾でアロマ研究をする日本人のヒロインと出会い、さまざまな葛藤を経ながら、心のつながりを求めていく物語です」

─主役の黃有岩を演じられたそうですが、どのような役柄ですか。

「今回の役柄は私にとって新しいチャレンジでした。これまで演じたキャラは、だいたい男らしいイメージが強かったのですが、今回演じた役は、どちらかというとちょっとマザコンな男ですね(笑)。イヤなことがあったらすぐ逃げようとするタイプです。物語が進むにつれて、主人公は少しずつ男として成長していきます」

─役作りの際にはどのような準備をされましたか。

「特に作り込みませんでした。唯一準備らしきものといえば、私はもともと声が低いのですが、この役柄は少し弱気な性格のため、声を高めに柔らかく出すように意識しました。これまで演じたのは、重々しく挫折だらけの役が多かったのですが、この作品は軽く楽しめるラブコメディーですので、リラックスして現場の雰囲気を感じるように演じました。一番苦労したのは日本語のせりふを覚えたことです。事前にせりふを覚えても、感情を込めようとするとうまく話せなかったです」

─日本人俳優と共演されましたが、現場ではどんな感じでしたか。

「夫婦という役どころの柴本幸さんとは交流が一番多かったですね。柴本さんは英語がとても上手で、芝居の相談はほとんど英語で話しました。また彼女はセリフを覚えるのがとても早い方です。慣れないはずの中国語もすべて覚えて、けんかのシーンでもスラスラと話されたのは本当に驚きました。一方、金子昇さんとのシーンは割と少なかったのですが、仕事の後はよく一緒にビリヤードをしました。私から見ると二人はまったく違うタイプの俳優です。柴本さんは、私がイメージする日本人そのものといった感じで、とても真面目で段取りを大切にされます。中国語のせりふに対しても真摯で『どんな語気で発音すればいいか?』と聞かれ、その部分の中国語を吹き込んだ音源を送ったこともありました。ですので、柴本さんの演技には安定感を感じますね。金子さんはユーモアがあり自然体、イタリア人やフランス人のような雰囲気がある方です。アドリブもとても多く、共演したシーンでは多彩なバリエーションを生み出すことができました」

─熊本県で撮影されたとお聞きしましたが、特に印象深かったことは?

「本物の熊を見ました(笑)。バスで山道を登る途中、脇の草むらにキャリーケースぐらいの大きさの黒い物体がいたんです。よく見るとなんと一匹の熊がうつ伏せになって何かしていました。とてもかわいくて、『熊!熊!』と叫ぶほど興奮しましたね。後から地元の方に聞いてみたら、今はめったに見られないとわかりました。初めて熊本に行って熊が見られてとても幸運です」

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台湾映画の開拓者のような存在に

 

─もし撮影中に想定外なことが起こった場合は、どのように対応しますか。

「いいプレゼントだと思うようにします。例えば、晴れた日のシーンに突然大雨が降ってきた場合は、臨機応変な対応力を鍛えることができます。こういう予想外の状況は逆にワクワクしますね。ペースを乱された後にどう対応するか、それは役者への試しだと思います」

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─台湾映画界に欠かせない人材だと思いますが、今後どのような立ち位置を目指していますか。

「さまざまなジャンル・テーマの『開拓者』の一人でありたいです。『目撃者』はある意味そういった面がある作品でした。これまでの台湾映画は大体青春もの、あるいはラブストーリー、お正月のコメディーといったジャンル以外はややバリエーションに乏しかった。『菜鳥』はある種のジャンル映画ともいえますが、伝統的な要素も含まれています。『目撃者』は完全にジャンル映画ですね。最近では『紅衣小女孩』のようなホラー映画などさまざまなタイプの台湾映画が出てきています。ここ1、2年やっと台湾でも、エモーショナルで多くの実験的な要素を含んだ勇気ある作品が見られるようになりました。自分が役者であるこの時に、その波に乗ることができ、とても幸運だと思います。また台北映画祭や金馬奨で皆に認められたからこそ、もっと別の映画に挑むべきだと思っています。どんな映画でも器用にこなせる役者になりたいですね」

─台湾映画界について、ほかに感じることはありますか。

「よくどこまで脱いだか?ということが話題になりますが、その役を演じる上での表現の一部なので、自分にとって重要なポイントではありません。例えば食欲と性欲は人間にとって同じ種類のもので、何も恥じることはないはずです。ヨーロッパ映画などはよく濃厚なベッドシーンがありますが、作中の表現の一環だとわかっているので演じる側も自信を持って演じています。東洋の社会はその点について保守的ですが、私たちは大胆に勇気を持って進むべき。突破すべき一線はまだまだ残されていると思います」

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─では、今後はどんな役柄を演じたいですか。

「20歳のころから京劇の稽古をしています。これまで16年続けてきましたが、仕事でブランクが7、8年以上できてしまいました。最近は昔の感覚を取り戻すため、再び体を鍛え直しています。アジア映画には『スポーツヒーロー』のような役柄があまりいなかったので、人を励ますような、あるいはあまり知られていないけれど実はドラマチックな人生をおくった歴史上の人物など、東洋のヒーローを演じてみたいです」

─今後の目標をお聞かせください。

「今年は少なくとも、さらに世界をつなぐようなグローバルな俳優を目指したいと思います。どこの国の作品でも構いません。自分に制約を設けたくありませんから。ずっと台湾らしい庶民派の俳優だと呼ばれてきて、その表現は嫌いではありませんが、台湾の作品をもっと世界の人々に見てもらうには、海外の俳優やチームとの国際的な交流が不可欠だと思います」


Profile

1981年生まれ。2011年テレビ映画『破浪而出』で、第45回金鐘賞のミニ・シリーズ/テレビ映画部門と、第15回アジアテレビジョンアワードの最優秀ドラマシリーズ部門で、最優秀助演男優賞にノミネート。2012年では、映画『候鳥來的季節』で第49回金馬奨最優秀助演男優賞にノミネート。2015年テレビ映画『回家路上』で、第50回金鐘賞最優秀主演男優賞(ミニ・シリーズ/テレビ映画部門)を受賞。翌年『菜鳥』で第18回台北映画祭最優秀助演男優賞受賞。また2017年の『目撃者』では、第54回金馬奨と台北映画祭で最優秀主演男優賞にノミネート。最新作は現在放送中のドラマ『紡綞蟲的記憶』(フズリナの記憶)。

(2018年4月号掲載)