稲庭養助本店(佐藤養助商店)

(稲庭養助本店は2016年10月8日を以ちまして営業を終了いたしました。)

稲庭うどんを台湾に広めたい

四国の讃岐うどん、名古屋のきしめんと共に、日本三大うどんの一つとして数えられる秋田の「稲庭うどん」。「きりたんぽ」や「いぶりがっこ」と並び称される秋田県の名産である。しかし、生産地が湯沢市稲庭町に限られること、全工程が手作りで大量生産できないことから、日本でもそれほど多く流通しているわけではない。
そんな中、2013年7月、稲庭うどんを食べられる店が台北にオープンした。稲庭うどんの老舗「佐藤養助商店」の海外1号店「稲庭養助」である。台湾初の稲庭うどん専門店の誕生だ。
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稲庭養助松江店。
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稲庭養助松江店の店内。

本物の稲庭うどんを台湾で

秋田県以外の人間が稲庭うどんを一般的に食べられるようになったのは、1980年代半ばごろからといわれる。それ以前は、大手一部の百貨店でごく少量しか販売されておらず、誰もが手軽に手に入れられるものではなかった。

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2号店の五工店。

そもそも、稲庭うどんを作っているメーカーは20社に満たず(秋田県稲庭うどん共同組合発表)、「手延べの干しうどん」という稲庭うどんの性質上、大量生産はもとより不可能。佐藤養助商店にしても、1日に仕込める量は多くても1000㌕だという。たとえ工場を拡大し、人手を増やせたとしても、作り手にも技術と修練が必須のため、急速に拡大展開はできない。つまり、以前より流通量が増えたとはいえ、やはり今でも希少なうどんであることに変わりはないのだ。
そんな中、創業155年を誇る「佐藤養助商店」は、2013年、あえて海外進出に打って出た。04年、当時会長だった7代目佐藤養助氏が「現代の名工」(厚生労働大臣表彰)を受賞した、稲庭うどんの名店である。台湾店を立ち上げた東京エリア厨房統括の川村勝行氏は「地元稲庭うどんの美味しさを、台湾人にも知ってもらいたい」と台湾進出に意欲を見せた。

日本の味を守りつつ台湾人にも合う味に

しかし、立ち上げ時は困難を極めた。川村氏が現地入りできたのは、開店のわずか1ヵ月前。内装はほぼ済んでいたものの、食材の調達は一から始めなければならない。日本では簡単に手に入る食材の入手が難しかったり、仕入れ値が高かったり、日本では予測しきれなかった問題が山積みだった。そのため、あらためて現地で調達するものと輸入するものとの仕分けをし直し、さらに現地業者の選別と交渉、そして契約。本来であれば、つゆには比内地鶏のだしを取るのだが、加工品でない肉と骨は輸入できないという壁もあった。思いどおりの食材が入手できないのはもどかしかったが、幸い、台湾でも良質の食材を見つけられ、オープンにこぎつけた。

川村氏は「もっと日台間の協力関係が進み、輸入できる食材が増えればいいですね。海外では食材の入手に限界がありますが、手に入る素材でできる限り工夫を重ねています」と、現状の問題点に触れつつも前向きな姿勢を示す。
うどんとつゆは、日本の味をそのままに。しかし、その他に関しては、台湾人の好みを考慮し味付けを微調整している。川村氏の考案した新メニューもすでに60は下らない。ランチで新しい料理を提供し、その反響により定番メニューにすることもあるという。台湾人に人気のある鍋物や揚げ物を多く取り入れているのも、日本店とは異なる点だ。稲庭うどんが初めての人には、当初「味が濃い」と言われることもあったが、だんだんと受け入れられ、今では台湾人のリピーターも多くなった。

日本式を貫く空間とおもてなし

店内には、1本杉を使った個室のテーブルがあり、骨董品も随所に置かれている。骨董品は、合弁会社の台湾サーモス(THERMOS)前会長が自身のコレクションを提供しているという。器は、秋田伝統工芸の川連漆器。一つ1万円は下らない高級品を惜しげもなく使用しているのには驚かされるが、それだけに秋田のこだわりを存分に味わえる空間だ。
その精神は、サービス面でも徹底している。従業員の8割は日本語に堪能だが、細やかな言葉遣い、マインドを含め、日本式の感情労働接客を重視しているという。とはいってもマニュアルはなく、茶道の機会を設けるなど、一見、直接接客とは関係のない日本文化に触れさせることで、多方面から日本を理解し、その上で自然に礼儀作法などが身に付けられるよう、さまざまな体験をさせているとのこと。従業員の一人は、そうした体験を「お客さまとの話題にもつながるので楽しいです」と話した。
とはいえ、ラーメン、寿司、牛丼、カレーなど台湾に進出する日系外食産業は後を絶たず、台北での競争はますます激しくなっている。今年に入り、日本の食品に対する輸入規制も強化され、状況はさらに厳しい。
しかし、逆風の中2015年7月に五股工業園區エリアに2号店となる五工店をオープンした。
「日系レストランの増加はあまり意識していません。うちにはうちの個性がありますから、正直にやっていれば結果はついてくると信じています。台湾人に稲庭うどんを認知してもらうのが自分の役目です」。川村氏はにっこりと、しかし自信をにじませた静かな声でそう語った。目標は台湾全域。ゆっくりと、しかし確実に稲庭うどんは台湾に浸透し始めている。

(2015年8月号掲載)


松江店
所在地:台北市中山區松江路54號
TEL:+886-2-2541-5656

五工店
所在地:新北市新莊區五工路66號2樓
TEL:+886-2-8521-7182

URL:www.tw-inaniwa.com/
営業時間:11:30~14:30/17:30~21:30


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