林書宇 – 自らの体験をもとに、喪失から再生までを描く

今年の台北電影節のクロージングを飾った『百日告別』は、『星空』から3年ぶりとなる林書宇(トム・リン)監督の新作だ。最愛の夫人を亡くし、自身の喪失から再生までの心の旅を映画という形で完成させた。愛妻が残した「映画を作り続けて……」という願いを受けて、自身の思いと客観性を見事なまでのバランスで脚本にし、こだわりの映像美で見る者の心の奥底を震わせる名作に仕上げている。インタビューでは、自らの百日に別れを告げたプロフェッショナルの監督がそこにいた。

―『百日告別』は監督ご自身の体験をもとにした作品ですが、製作までの経緯をお話しいただけますか。

「2012年の7月に妻が亡くなり、僕は初七日から週に一度山の上にある寺に通い読経していました。百か日が過ぎそれから7日目、つまり107日目から自分の心境を書き留めたものをプロデューサーに見せました。その時は映画にするかどうかは全く白紙でしたが、彼女は『書き続けてみれば』と言ってくれました。ただ、毎日書いていたわけではなく、鈕承澤(ニウ・ チェンザー)監督の『軍中樂園』の助監督をすることになったので、その合間に思いついたことを書き綴っていました。そして、前作『星空』の興行成績が良かったため、政府から新作に対して補助金が出るシステムがあるのですが、その脚本提出の期限が迫ってきたので、『軍中樂園』の撮影半ば、ほとんど重要な部分を撮り終わった時に鈕承澤監督にお願いして脚本を書くことに専念しました」

%e7%99%be%e6%97%a5%e5%91%8a%e5%88%a5-%e5%8a%87%e7%85%a7-3―この作品の登場人物の多くが監督の分身のように思えましたが、ご自身の思いと客観性との間で困惑したことはなかったですか。

「確かに僕自身の思いが強すぎたことはありました。そこはプロデューサーと常に話し合いながら軌道修正をしていき、特にヒロインの心情などは女性であるプロデューサーに意見を聞きながら書いていきました。この映画は僕の経験から発想したものですが、登場人物もストーリーもあくまでもフィクションです」

「大人」を演じられる人選

―キャスティングについてお聞きします。メインキャストの林嘉欣(カリーナ・ラム)、石頭(ストーン)を起用したポイントを教えてください。

「今回は大人の物語ですから、それに合う人選を心掛けました。林嘉欣はもともと素晴らしい女優だと思っていましたし、この役は気持ちを内に秘めた静かな女性という設定なので、彼女しかいないと思っていました。ただ、育児中なので果たして女優復帰するのかどうかわかりません。でも、とにかくあたってみようと思い脚本を送ったら、快諾をしてくれました。石頭は前作『星空』で中学校教師の役で出てもらいましたが、今回の役は葛藤が多く心の爆発力も必要だったので彼が良いのではないかと思いました。彼とは役作りについて本当によく話し合いました。そして『自分がこの男の立場だったらこうする』と、たくさんアイデアも出してくれました」

―かなり入魂の演技でしたね。

「そうですね。ある日現場に向かう途中、前を歩いている石頭を見つけたので一緒に行こうと思って近づいたら、もうすでに育偉(石頭の役)だったんですよ。ですから、声を掛けられず僕は別の道を通って現場に行きました」

名監督が編集サポート

―台北電影節での上映の後に、戴立忍(ダイ・リーレン)監督と鈕承澤監督のお二人が編集をサポートしたとおっしゃっていましたが、具体的に教えていただけますか。

「ラフができた時に、お二人それぞれに見てもらい、意見をお願いしました。鈕承澤監督は、細かいところがあるから編集室で作品を見ながらにしようということになりました。30分くらいいろいろ聞いていたら、突然僕に帰って少し休んでいろと言うのです。鈕承澤監督は自分が思うバージョンを作るから、と。そうしたら、なんと3日間編集室にこもって作業してくれました。戴立忍監督も同じように自分で編集してみると言われ、なんと6日間かけて作ってくれました。僕はその二人のバージョンを参考にしながら自分の編集作業をしたので、気の毒だったのは編集マンです。3人の監督の3つのバージョン作りに付き合わされたのですから。(笑)」

―台湾を代表する監督の皆さんの編集結果が楽しみですが、公開に向けてのメッセージをお願いします。

「『百日告別』は、10月8日に全台湾で公開になります。この映画は優しいけれど、つらく残酷な部分もあります。でも、皆さんに前向きな力を与えてくれる作品だと思います。ぜひ多くの方に見ていただいて、映画で得た力を家族や友達、周囲に伝えてほしいと思います」

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『百日告別』2015年10月8日(木)台湾公開  大規模交通事故で婚約者を亡くした心敏と愛妻を亡くした育偉、それぞれ大きな喪失感で呆然とした中で葬儀を終え、現実と向かい合わなければならなかった。悲しみと孤独、怒りで混乱するふたりは、初七日、35日、49日に山の上にある寺でひたすら読経する。一度は最愛の人の後を追うことも考えるが、育偉はピアノ教師だった妻の残務整理を、心敏は新婚旅行を予定していた沖縄へひとり旅立つ。そうして百か日を迎え、育偉と心敏は初めて山の上の寺で言葉を交わす……。
プロフィル
林書宇 – トム・リン: 1976生まれ。世新大学で映画を学んだ後にカリフォルニア芸術大学院に留学。鄭文堂や蔡明亮の助監督を務めながら短編映画を製作、2005年の短編映画『海巡尖兵』で国内の映画賞を数々受賞した。08年初の長編映画『九降風』(九月に降る風)は台北電影節で審査員特別賞、金馬賞ではオリジナル脚本賞を受賞、日本でも東京国際映画祭で上映された後に一般公開となった。11年には台湾の人気絵本作家ジミーの『星空』を映画化し、高い評価を受けた。

取材・文/江口洋子

2015年9月号掲載

(中文記事)

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