張書豪 チャン・シューハオ

デビュー10周年――ぶれない志

映画やドラマで主役を張るおなじみのスターがほとんど30歳を越えた台湾で、注目される新世代(20代)の俳優としてトップを走るのが張書豪。10代で金鐘奨の主演男優賞を獲得し、2012年には『BFGF』で台北電影奨の助演男優賞に輝き、同年の金馬奨でも助演男優賞にノミネートされた若き演技派だ。以前はテレビドラマも公共電視のシリアスな作品だけだったが、コメディーもこなせる振り幅の広さで最近は主演俳優不足のアイドルドラマでも重用されている。

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「初心忘るべからず」の俳優生活10年

―デビュー10年になりますが、振り返ってみてどんな10年でしたか。

「いろいろな役を演じることで経験を積み、それが血となり肉となる……キャラクターの中に入り込み、役を楽しむことが徐々にできるようになってきたと思います。俳優は演技が好きというだけでなく、プロとしての技術、人とどうやって関わっていくかが大事です。そういう初心を忘れずに情熱を持って学習し続けてきた10年といえるでしょうか」

―「初心忘るべからず」というのはとても大事だけど、それを持ち続けるのは難しいことだと思います。そのために心掛けていることは?

「実は、僕は高校に入った時に先輩たちからとても可愛がられて、ちょっと思い上がって天狗になってしまったので、学校中の皆から嫌われてしまいました。完全にはじき出されたのです。でも、高校2年のクラスで出会った皆は自分にチャンスをくれると言ったので、僕は態度や考え方を改めました。そしてクラスの中心的な存在となり、みんなと仲良く楽しい日々を送っていました。ところが、18歳の誕生日の前日に事故に遭いました。それは命に関わるような大事故でした。その時にクラスメートがお見舞いに来てくれたことが本当にうれしくて、輝かしい青春の日々での忘れられない想い出になりました。そして、卒業式で同級生の代表が『“莫忘初衷”(初心忘るべからず)という言葉を君に贈るよ』と言ってくれたのです。だから、その後どんな誘惑があってもクラスメートたちの気持ちがこもったその言葉が僕を支えてくれました」

―いいエピソードですね。かけがえのない想い出とその言葉を持ち続けて俳優として歩んできた10年で、いろいろな作品や役、監督との出会いがありましたが、ターニングポイントになったのは?

「ドラマの『那年,雨不停國(あの日を乗り越えて)』という作品です。八八水災(2009年8月台湾中南部から東南部を襲った記録的な水害)と呼ばれる台風で水害に遭ったその土地に行き、何もなくなってしまった所に立った時、言葉が出ないくらいの衝撃を受けました。そういう環境の中でヒロインに語るせりふに自分自身が感化されて、鳥肌が立つ思いでした。この作品はとても意義深い物語なので、俳優としての使命感が芽生えました。それから俳優としての取り組み方が変わり、その後の『GFBF』のゲイの役、『金孫』の農夫、『對面的女孩殺過來』など、キャラクターに入り込み同化することがスムーズにできるようになりました。そして、出会った多くの監督たちから良い影響を与えてもらいましたが、何といっても易智言(イー・ツーイェン)監督ですね。僕の会社の社長ですが、時に兄として、父として、俳優としてだけではなく、人間としての成長に必要な指導をしてくれます」

映画『百日告別』で特別なシーンへのチャレンジ

―そういう経験を経て、『百日告別(百日草)』では、少ない出番ながらとても重要な役で特別なシーンがありました。台湾の道徳観から受け入れられないという人が多かったとのことで、台湾での一般公開の時にはカットされましたが、監督は日本ではオリジナルバージョンでの上映にこだわり、東京国際映画祭ではとても評判が良く、行定勲監督もあのシーンを絶賛していました。実際に演じたあなたとしては、どのように考えて演じたのですか。

「あのシーンは、準備に二ヵ月かかりました。亡くなった兄のジャケットを着て、10秒くらいして涙が出る。すぐにではなくて、気持ちの発露まで少しの間があるという演技を見せたいと思いました。鏡を見て、兄が近くに戻ってきてくれたように感じて思いが込み上げ崩れ落ちる、思いがほとばしるという感情の表現をしたかった。そして、その後の義姉とのシーンは監督ともかなり話し合いをしましたが、絶対にいやらしさが出てはいけない、観客に二人が本当につらい気持ちで体を重ねるということを感じてもらわなければならない、そこがとても難しかったです。二人に共通する大事な人を失った悲しみは、誰にもわかってもらえない、世界中でこの気持ちをわかり合えるのは自分たちしかいない。二人はその時とてももろく、ある種の愛を必要としていた。それは恋愛ではなく、互いの喪失感を埋められるのは自分たちだけだという衝動ですね。そして、その行為は義姉にとっては最愛の人、弟にとっては兄を近くに感じるということだったのです。互いに理解し必要としていたもの、そしてその導火線は二人にしかわからない気持ちです。それを表現するのは本当に難しかったです」

―日本人のほとんどは、それを受けとめて感激したと思いますよ。

「ありがとう。でも残念ながら台湾の友達に聞いてもこういう気持ちはわかってもらえなかったです。抱き合う時でも、強く抱きしめるというのは、僕にはあなたが必要、あなたは僕が必要という表現なのです。抱き合って背中をなでるというのは愛の表現であって、このシーンはそういうことではない。とても深刻な何かが混乱しているというように見えなくてはいけないと思い、自分の頭の中で何度も何度も考えシミュレーションして演じました」

僕はアイドルではなく“俳優”

―さて、新作映画のお話を聞かせてください。『我們全家不太熟』では、授業中に電話で赤ちゃんを泣き止ますために必死でB−BOXを聞かせるシーンが本当に面白かったです。笑わせるための演技ではなく、真剣だから笑えるというのは脚本と演出、演技の力があってこそだと思います。

「これは脚本が良かったからでしょう。コメディーというのは、本人が一生懸命やっていることが周りから見ているとおかしい。だから、演じる時は、真剣にその場で起きていることに対峙しなければならないですね。そしてコメディーで一番重要なのはテンポ!」

―あのB−BOXがとても上手でしたが、相当練習したのですか。

「(笑って)一ヵ月授業を受けました。ものすごく練習したのだけど、この役はB−BOXの名手ということなので、先生にアフレコをお願いしたところもあります」

―では、最後に俳優としてのポリシー、これから目指すものを聞かせてください。

「いつも言っていることですが、僕はアイドルではなく“俳優”です。最初に話したように初心を忘れずに俳優として真剣に向き合い、意義のあることをやり、いろいろなものを発見していきたい、そして観客に影響を与えられるような俳優になりたいです。張書豪が出ているから見に行きたいと言われるようになるのが最終的な目標です」

プロフィル
1988年10月22日生まれ。06年ドラマ『危險心靈』でデビュー、07年にドラマ『畢業生–還好,我們都在這裡』で金鐘獎のミニドラマ部門の主演男優賞を獲得。映画は『1895』(08年)、『有一天』(10年)、『轉山』(11年)と立て続けに主演、11年の映画『GF*BF 』で台北電影節の助演男優賞受賞、『金孫』(11年)『對面的女孩殺過來』(13年)の主役、『百日告別』(15年)では助演ながら重要な役どころをこなし新作『我們全家不太熟』が公開中。主演ドラマは『あの日を乗り越えて~那年、雨不停國』(10年)、『悪男日記』(13年)、今年2月放送の『火車情人MEMORY』など。

 

Jimmy+++Studio
『我們全家不太熟』 公開:2015年12月31日より台湾公開中 出演:張榕容、張書豪、郝劭文、陳大天、豆寶 陳松勇、林美秀、許效舜、趙樹海、蔡黃汝(豆花妹) サイト:www.facebook.com/WeAreFamilyMovie

 

取材・文:江口洋子/写真:鐘政勇

(2016年1月号掲載)

 

 

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