台湾雪印股份有限公司

「老板(ラオバン)文化」に溶け込んでトップシェアに

雪印の粉ミルクが台湾で一昨年、昨年と2年続けてトップシェアになったーーといってもあるいは「ホント?」と首を傾げる人がいるかもしれない。それはそうだ。雪印の粉ミルクは台湾に住む日本人がよく行くスーパーなどにはない。なぜ? 雪印は台湾人が専ら愛用するパパママストアや薬局、ベビー用品店にある。まさに台湾の「老百姓」(一般庶民)の暮らしの中で雪印の粉ミルクが広く利用されているのだ。


店の旦那や女将さんに直接売り込む
「私はこの国は『老板文化』だと思ってます」。台湾雪印の小原康嗣・董事長(56)はこう言う。「老板(ラオバン)(老闆)」は商店の主人。「老板娘(ラオバンニアン)」は女将(おかみ)さん。「台湾は、多くのお母さんたちが近所のお店の旦那さんや女将さんと世間話をしながら買い物する文化なんですよ」。
「赤ちゃんがおっぱいをあんまり飲まないで困ってるのよ」、「粉ミルク? どこのメーカーがいいのかしら?」、「今、一番売れてるのはどれ?」ーーといった調子か。口コミの世界だ。口コミだからこそ確実に伝わる。
台湾雪印では営業スタッフが台湾を北、中、南、東の四地区に分け、代理店ではなく、小売店を回っている。そこで老板や老板娘と直接会話をしながら、直接取引する。一人で100店近くを担当するスタッフもいる。直接取引している小売店の数は1000店を超える。台湾雪印独特の販売方法でシェアを拡大。その結果のトップシェアだ。
「台湾に進出して2014年は50周年。節目の年にトップシェアになったのはとてもうれしいです。しかも昨年もトップを維持」と小原董事長。少子化もあって台湾の粉ミルク市場のシェア争いは熾烈だ。スーパーの棚には日本や欧米の粉ミルクがひしめいている。そこに雪印はないが、他社が足を運ばない小売店を足で獲得してシェアを広げた。

シェア急減で台湾市場撤退も考えた
台湾雪印がここまで来るにはもちろん波風はあった。それも台湾撤退を考えたほどの特大暴風(・・・・)まであった。
駐在員事務所の開設は1964年。トラックに粉ミルクを積んで問屋や代理店を回った。そのころのスタッフは「医者通い」もした。病気になったわけではない。粉ミルクを買ってもらうにはお母さんたちに「いいミルクだ」と思ってもらうようにしなければいけない。そのためにはまず小児科医や産婦人科医に気に入ってもらい、病院で使ってもらうことが大事。奨学金制度を作り、小児科医の海外留学の支援もした。残念ながら米国留学ばかりで、日本留学は極めて少なかった。その小児科医の協力で、台湾のお母さんの母乳を集め、粉ミルクの開発に役立てた。
その駐在員時代の最後のころ、1989年から92年まで小原董事長も駐在員として滞在した。ようやく民主化が始まった時代で、反日の気運も残っていた。粉ミルクを持って問屋や病院などを回ると「日本のものなんか使わない!」と怒鳴られ「もう来るな!」と追い出されたこともあった。
93年に現地法人化したが、民主化の進行や医師の欧米留学で、それまでは日本メーカーの独壇場だった粉ミルク市場に欧米メーカーが続々と参入し、欧米メーカーがシェア争いで上位を占めるようになり、日本メーカー1社が撤退した。
そんな苦しい戦いの最中、暴風(・・)が雪印を襲った。2000年、雪印乳業の乳製品による大阪食中毒事件だ。大阪の事件だが、同じ雪印のブランドなので、台湾にもすぐに大きな影響を与えた。十数%あった雪印のシェアは一桁に落ちた。ブランドの信用でお客さんは買っているのに、そのブランドに傷がついたのだ。売れるはずがない。真剣に撤退も考えた。

台湾社会の多様性を理解すべき
しかし残った現地スタッフが頑張った。代理店を通さず、直接小売店と取引する販売法もローカルスタッフが言い出したものだ。彼らは必死に老板や老板娘を通じて品質と安全性を説明した。「台湾と日本の経営は違う。日本はトップダウンだけれど、台湾ではスタッフの意見を尊重し、吸い上げるようにしないといけない」と小原董事長。続けて「スタッフは商品を信頼してくれている。私は彼らを信頼している」。
実は、小原董事長はもう一つの肩書きがある。本社の海外事業部長。東京と台北を行ったり来たりで、台北に不在の時が多いが、台北にいる時は社員とできるだけ話すことにしている。「25年前までははばかられたけれど、今は政治の話なども自由にしている。国の成り立ちから台湾は非常に多様な人がいる社会。その多様性を理解することが大切」と言う。
理解するだけではない。そして信頼する。小原董事長は不在の時はローカルスタッフのトップにすべてを任せている。「私の片腕というよりは両腕ですよ」と言うほど。昨年暮れ、初めて台北マラソンに参加し、10キロを完走した。うれしいことに多くの社員や駐在時代の同僚が出てきて応援してくれた。それだけの信頼の絆ができている。
台湾雪印の主要な商品は粉ミルクとマーガリン(ネオソフト)、そして新商品の「雪印ケアMBP」。牛乳に含まれる微量の蛋白質の働きで骨密度を高める飲料だ。日本では特定保健用食品に認定されている。粉ミルクでトップシェアを生んだ多くの老板や老板娘との信頼関係で高齢化社会に対応したこの商品を今後、台湾でも積極的に売り込んでいく戦略だ。

会社:台湾雪印股份有限公司
所在地:台北市基隆路一段333號(國貿大樓)11樓1114室
TEL:0800-081011、02-2758-1011
URL: www.snowmilk.com.tw

取材・文:迫田勝敏

(2016年2月号掲載)

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