天香回味

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天からの香り、もう一度食べたい……

「ブアーン」――。階段を上って2階の店内に入ると、「皇帝のお出ましぃー」とでもいうように銅鑼(どら)を鳴らして迎えてくれる。その店の名は「天香回味」。モンゴル火鍋の「本家」だ。日本でも関連会社がチェーン展開している。台湾は十数店だが、最盛時よりは大分減った。経営不振だからではない。「味」だ。高品質の味を維持するため、味が落ちた店は「天香回味」の看板を外す。その味へのこだわりがお客を引き付け、変わらぬ店のにぎわいを保ってきている
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董事長の林振龍氏

中国で出合ったモンゴル鍋

「天香回味」は老舗のようにも思われるが、実はそう古くはない。創業は2001年8月。林振龍・董事長が今も「総部」(本店)としている台北市南京東路で立ち上げた。林董事長は実はそれまでは美容機器の貿易をしていたが、将来を考え、長く続けられる新しい仕事を考えていた。中国語では人が暮らしていく上で必要なものは「衣、食、住、行」という。「行」は交通の意味。その中でも人間にとって一番大切なものは「食だ!」と思い当たり、ならば飲食業だと決めた。
貿易業務の日本のパートナーにも相談した。パートナーは「とんかつがいい」と言ってきた。今でこそ台湾にはとんかつ屋さんが出てきたが、当時は皆無。林董事長は、台湾では「排骨」がポピュラーだから「とんかつ」が市場参入する余地はないだろうと思ったのだった。では、何を? 思いあぐねて、夫人と二人の専門家と一緒に中国に行った。新規開業のアイデアを求めての取材旅行だ。
そこで出合ったのが「モンゴル火鍋」だった。初めてモンゴル火鍋を見た時、「鍋の中にお金がある!」と林董事長には見えた。鍋ではあるが、たれを浸ける必要はない。薬材などをすべてスープに入れて煮込むからコックはいらない。加えて薬膳なら体にいい。林董事長はこれだと思った。モンゴル火鍋をやろう、と。

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乾燥させるなどそれぞれの処理を施した68種類の天然植物。

SARSの時も満席続き

開業してみると、順調に売り上げを伸ばしていた。そこへ大問題が起きた。2003年に台湾ではSARS(重症急性呼吸器症候群)が、大流行したのだ。台北では病院封鎖までする騒ぎで、外出にはマスク必携。飲食店はいずこも、店の入り口に消毒用のアルコール噴霧器を用意するなどしたが、経営は青息吐息。客足はめっきり減った。ところが「天香回味」ではお客さんは減るどころか増えた。一部で薬膳の火鍋はSARSの予防になるともいわれたせいか、連日満席で、予約なしでは食べられないほどだった。まさに禍転じて福となる。
「運ですよ」と林董事長はいう。確かに運が良かったといえるが、運だけで商売繁盛は長続きはしない。飲食店はやはり味が決め手だろう。
天香回味の鍋は基本的には三つある。「天香」というスパイスの効いた鍋、「回味」という薬膳鍋、そして素食(ベジタリアン用)の鍋。「天香」と「回味」の2種類を真ん中に仕切りが入った一つの鍋に入れる「天香回味鍋」もある。
そして薬材など68種類の植物を煮込んだ「天から降りてきた香り(天香)」のスープ。そのスープで肉や野菜をグツグツ煮る。食材は吟味に吟味を重ねて世界各地から取り寄せる。肉はスペイン、チーズは日本の北海道、蝦はブルネイ、野菜は台東――という具合。従ってコストはかかるが、「食の安全が大事。食べるほうも安心でしょう」と林董事長。この味へのこだわりが、一度味わってみれば「また食べに来たい(回味)」と思うようになるという思いを込めた「天香回味」の看板になった。
その「天香回味」の名の通り、「もう一度食べたい」という常連客も増えた。総部の南京東路の店は2階が300席で、10階にも200席。最盛時は6回転もしていた。今は競争相手が増えたこともあり、そこまではいかないが、それでもいつも満席状態で、特に冬は予約なしでは入れないことが多い。

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一部、店内で栽培している野菜も。

味第一で食材にこだわり

人気沸騰で一時は大々的にチェーン展開もした。多くは林董事長の総部の技術指導を受け、「天香回味」の看板を掲げた店だ。日本でも美容機器の貿易業務のパートナーだった日本人が設立した会社に出資して、東京の日本橋など9店で営業している。
しかし林董事長は「長期継続のためには味は一定の水準を保つことが大事」と考え、台湾でのチェーン展開では、加盟店には何よりも「味」第一を求めている。しかし食材にこだわるだけにどうしてもコストアップし、従って売価も高くなる。そこで安い食材を使う店も出てきて味が落ちてしまう。それを林董事長は何よりも嫌う。味が落ちればチェーン店の契約は破棄、看板を外す。このため一時は50店に増えたチェーン店だが、今では10余りに減った。
それでもブランド力が付いているだけにチェーンから外れても「天香回味」を名乗る店もあり、今も係争中の店がいくつかある。
天香回味の成功で競争相手も増えたが、林董事長は価格競争はしない。食材にこだわるだけにコストアップは仕方ない。そこで今は関連商品の開発を手掛けている。「天香」のソーセージやクッキー、モンゴルの団子、米の麺……。材料は台東のほか中国、日本(山梨県)にある自前の農場からも入れている。食材も自前で育てる。それも味にこだわるからだ。


天香回味
所在地:本店:台北市中山區南京東路一段16號2F
TEL:(02)2511-7275
URL:www.tansian.com.tw


取材・文:迫田勝敏

(2016年4月号掲載)

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