韋禮安 ウイリアム・ウェイ

変幻自在な音楽性は無限大

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1stソロアルバム・3rdアルバムで、それぞれ金曲獎の最優秀新人賞と作曲賞を受賞するなど、台湾のミュージックシーンで今最も注目されている一人、シンガー・ソングライターの韋禮安。劉若英(レネ・リウ)や范瑋琪(ファン・ウェイチー)、郭靜(グオ・ジン)、張韶涵(アンジェラ・チャン)ら人気歌手に楽曲を提供するなど、創作面でもキャリアを積んでいる。
2年半ぶりとなる4stアルバム『硬戳』のリリースにあたって、本誌の単独インタビューに応える。彼独特の温かい雰囲気の中、アルバムの魅力などについて気さくに語ってくれた。

―デビューのきっかけは、音楽サイト・street voiceに投稿した楽曲が注目されたからだとか?

「ええ。最初は単に友達に聞かせたいという程度のものでした。ですから、レコード会社がアルバムを出すと言ってくれても、自分はまだ心の準備ができていなくて、ずっと迷っていました。でも『誰でも最初から準備万端なわけではないのだから、やりながら学べばいい』と言われ、考え方が変わった。失うものは何もないんだからダメ元でも試してみよう、と。それでライブハウスで経験を重ね、最初にEP、その後にソロアルバムをリリースしました。リリース当日がちょうど大学の卒業式だったので、とても印象に残っています。大学卒業後はすぐ兵役に就いたのですが、アルバムの反響が良く、まさか金曲獎まで取れるとは思いませんでした。兵役中に休暇をもらって金曲獎に参加できたことは、本当に光栄で、うれしかったです。その時から本気で音楽の道を歩いていこうと決意しました」

―ニューアルバムのタイトル『硬戳』とは、どんな意味ですか。

「このアルバムで一曲目に書いた『intro』という曲に対して、会社から中国語のタイトルもほしいと言われたんです。単純な中訳で「序章」「序曲」と付けるのはつまらないと思い、語呂合わせで『硬戳(インチュオ)』と付けたのが、アルバムのタイトルにも採用されました。もともと、活発で何でもありな感じに作りたかったのでいいかもと。私は『硬戳』(頑として突き刺す)の言葉のイメージを、自分の背中を押す動作として捉えています。前回の3rdアルバムから、私はずっと新しいことに挑戦するよう自分で自分の背中を押していました。韋禮安といえば、フォークソングを歌う歌手だとか、イメージを固定されたくないですから。去年の台北アリーナのコンサートでは、ダンスしたり、ロックの曲風を試したりしましたし、今回のアルバムでは新たにEDMの創作に挑みました。EDMのほかヒップホップ、R&B、フォーク、アルゼンチンタンゴなど、いろいろな曲風の曲を作ったので、創作の過程はとても楽しかったです」

 

―「intro」がそのEDMの曲ですね。歌詞と音楽が対比的に感じました。

「そうですね。新しい曲風と古風な詞をミックスするのはあまりないと思います。実はこのような両極端なことをやるのは結構好きです。この曲は時間という概念を取り出して、人の『存在』をテーマに書きたかったので、創作の前に不条理の要素が詰まったアルベール・カミュの作品を読んで参考にしました。歌詞には、中国古代の伝説『盤古開天 女媧造人』や荘子の『莊周夢蝶』、近代詩人鄭愁予の『錯誤』から引用したものもあります。もし誰もが死という結末に向かうのなら、どうしてこんなに頑張らなければ、悩まなければならないのか。人の存在する意味は何なのか、などいくつかの疑問を問うたものです。歌詞では伝えきれないと思いますが、この歌はメロディーがかっこいいだけではなく、歌詞も深みのある内容なので、いろいろ考えてもらえるきっかけになればいいですね。アルバムの1曲目としてもふさわしい曲だと思います」

―ではご自身はもう答えが出ましたか。人の存在意義について。

「難しいですね。カミュも、世界共通の答えはなく、人それぞれの答えを探さなければならないと言いました。私も多分一生をかけて探さなければならないですね」

―アルバムの中で最も気に入っている曲はありますか。

「最後の曲『在意』(気になる)は個人的に好きな曲です。アルバムの構成とは区別したボーナストラックみたいな曲なのですが、ずっと探していた、自分の内向的な性格の原因の答えが得られました。小さなころから人の目や他人の見方が気になって仕方がなく、両親や先生、友達には好きになってほしいし、嫌われるのが怖かったので、今の性格になったのかもしれません。皮肉にも、歌手になった今は、以前よりもっといろいろな意見が聞こえてきます。称賛もあれば批判もあります。それらの声を気にしないようにすることが今の私の課題ですね。気にしすぎると本当の自分を見失ってしまいます。この曲は心の告白なので、アルバムに入れようか迷いましたが、同じ気持ちの人たちにはこの曲が必要かもしれない、聞いた後、心の出口ができればと思い収録しました」

―デビュー前からたくさんの歌を作られていますが、ご自身だけの魅力、特徴は何ですか。

「まとめるのが難しいですね。曲でよく使う旋律を挙げると技術的になりそうですし……。歌詞ならストレートな表現を好みます。華麗な詞よりシンプルな言葉で人の心を打つ歌詞が最高のレベルであり、目標としています。例えば友達が書いた詞ですが、一見ラブソングのようなのですが、実は亡くなった祖母へのオマージュとして書いた歌詞で『你看著我來 我看著你走』(あなたは私が来るのを見て、私はあなたが逝(・)くのを見た)シンプルだけど、グッときました」

―ではアルバムの中で、会心の出来だと思われる歌詞を一つ教えてください。

「『intro』の1行目『這裡是盡頭也是開頭』(ここは終わりであり、始まりでもある)は、いろいろなことに当てはまります。人生だけではなく、例えばこのアルバムは今はもう作り終わりましたが、音楽の旅はここから始まります。とても希望に満ちた感じです。前回のアルバムのテーマは恐怖だったので『良い曲だけど聴いた後の絶望感が半端ない』という声が(笑)」

ずっと創作活動をしたい。音楽って面白いから

―前回のアルバムから2年半ぐらい空きましたが、創作活動はずっとされていたのですか。

「正式にアルバムを制作し始めたのは去年の年末からです。その前はコンサートの準備や『紅樓夢』の舞台劇、少数民族の映画に出演するなど、いろいろと忙しかったです。最初はお芝居に抵抗があって、特にデビューしたばかりの時期は音楽だけをやるとこだわっていました。(お芝居を)やると決めたのは、心の中のもう一人の私が背中を押した結果ですね。今は本当にやってよかったと思います。違うフィールドに挑戦したことで、もともとの音楽の枠を越えて新しい発想ができたので、創作活動に戻った時プラスになりました」

―歌手としての今後の目標を教えてください。

「最近の目標はもちろんツアーを順調に終わらせることです。長期的な目標はデビューからずっと変わっていなくて、一生音楽を創作することです。歌手でなくなったとしても、制作サイドなり、何らかの創作活動を一生やりたいです。音楽って本当に面白いから」

―創作力が枯渇するかもしれない、という恐れはありませんか。

「全然ありません。新しいことを学べば新しいアイデアが出てきます。新しい技術や知識はずっと出てくるはずですから、一生をかけても学びつくせないでしょう。脳を開放して若い心を保てば、創作力が枯れることはありません」

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―普段オフの時間はどんなことをされていますか。

「PS4でゲームをしたり(笑)、友達とバスケットボールをしてリラックスしています。あ、あと一昨年は自分で料理することにハマっていました。胃の具合が少し悪くなって、医師になるべく外食しないようにと言われたので自炊を始めたのですが、意外とストレス解消になりました。最近は忙しくて、たまにしかできませんが、当時は毎晩寝る前に必ずネットで料理教室の映像を見てから寝ていましたね」

―得意料理は何ですか。

「水を一滴も使わない無水カレーです。野菜自身の水分で作るのですが、とても簡単で野菜のうま味や甘みを味わえるのでとても美味しいですよ」

Profile
台中出身。台湾大学卒業。2007年にバラエティー番組『快樂星期天・校園歌喉戰』の歌唱コンテストで優勝。1stソロアルバム『韋禮安』(10)で11年金曲獎の最優秀新人賞を受賞。恐怖をテーマとした3rdアルバム『有所畏』(14)ではそれまでの優しく爽やかなイメージを一新し、収録曲「狼」が15年金曲獎・最優秀作曲賞を受賞した。2nd『有人在等』(12)、最新作は『硬戳』。そのほか劉若英、范瑋琪、郭靜、蔡依林、徐若瑄など多数の歌手にも楽曲提供。

写真提供:福茂唱片

(2016年9月号掲載)

 

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