古裂壺 – 唯一無二の味わい

茶館をはじめ、茶葉店やお土産店の一角などでも気軽に見かける台湾の茶器は、日本のものより一回りも二回りも小ぶりで、見た目にもかわいらしい。ちょっと贅沢な旅のお土産にと購入される方も少なくないのではないだろうか。そこで今回は、最近話題のちょっと変わった茶器、表面に無数の“裂紋”(ひび割れ模様)が入った「古裂壺」という急須を紹介しよう。


陶磁器のひび割れ模様は南宋時代にはすでに見られ、氷が割れたような様子を例えて“冰裂紋”とも呼ばれる。“冰裂紋”は特に青磁器に多く、中国陶磁器の伝統的な文様だ。日本では「貫入(かんにゅう)」と呼ばれ、多くの作品に見られる手法でもある。これらは素地と釉(うわぐすり)の膨張率、収縮率の差により、焼成後の冷却時に釉の部分にのみひびが生じるもので、素地には影響を及ぼさない。
対して、この古裂壺は、釉ではなく素地自体の表面がひび割れている。素地にひび割れがあるということは、本体に一定の厚みがなければ水が漏れてしまうわけだが、厚みがありすぎると今度は重くなって実用性に欠ける。そのぎりぎりのバランスを追求して完成したのが古裂壺だ。磁器の成分をほんの少し足すことで、薄くて強い素地が実現したという。


ひびを作る主な工程は、「形成」「乾燥」「焼成」の3段階。温度や湿度など、偶然の要素に大きく影響されるとはいえ、作り手にも高い難度が求められる技法だ。細心の注意を払っても、最終的に髪の毛ほどの亀裂が一つでも生じてしまえば、急須としての役目を果たさなくなってしまう。全体の3割ほどしか実用に耐え得るものは出来上がらないというから、完成品に有り難味が増すというものだ。

陶器を「育てる」

作り手の思いや精神状態も含め、さまざまな要素の積み重ねによって出来上がる古裂壺の模様は千差万別。それこそ指紋のように、同じものは二つとない。手に取ってみると、ざらっとした割れ目の感触が不思議と心地よく、見た目よりずっと軽いことに驚く。もう一つ特徴的なのは、お湯を注いだ時の様子だ。急須から生まれた湯気が一度表面のひびに吸い込まれ、再び上にたゆたっていく様は息をのむほどに美しい。
土の温かみを色濃く残す古裂壺は、顔料はもちろん、釉さえ塗られていない。だから毎日使い込んでいくと、お茶の成分が陶器に染み込み、深みのある色に変わっていく。これを台湾では“養壺”(急須を育てる)と呼ぶ。何十年も使い続けられた茶器の中には、お湯を注ぐだけでなんとお茶の風味まで味わえるものもあり、そうした茶器には骨董品のような高値が付くという。
世界に一つだけの模様を刻んだ古裂壺に、日々茶葉を抱かせ、お湯をたたえると、いつしかお茶を楽しんだ時間の分だけ、茶器もゆっくりと変化していく。古裂壺を見ていると、そんな贅沢(ぜいたく)で素敵な時間を重ねる未来を想像させられる。

“裂紋”に魅せられた陶芸家

テクニックだけではコントロールしきれない模様に魅せられ、究極の“裂紋”を追求し続けるのは、石古不化こと古健昌さん。「古裂壺」の名付け親でもある。独学で陶芸の道を究めた彼は、「食古不化」(学んでもうまく消化できない。生かせないこと)という成語の一字を自身の姓に置き換えた創作ネームで活動している。
元々お茶を飲むことが趣味だったという石古不化は、茶器の中でもなぜか急須に特別な魅力を感じ、気に入ったものを収集していた。ある日「買うより自分で作ってみれば?」という妻の勧めでろくろを回し始めると、たちまち創作にのめり込む。ついに30代半ばで脱サラし陶芸の道へ。妻が家計を支える傍ら、「作りたい」という気持ちの発露からひたすら創作に打ち込むこと15年。近年、古裂壺が口コミで耳目を集めるようになった。
創作への熱意を石古不化はこう語る。「作りたい、ただそれだけ。先入観を持ちたくないから独学でやってきたし、売ることを考えないから自由な発想ができる」。確かに古裂壺をはじめ、石古不化の作品にはユニークな物が目立つ。本物の蜂のさなぎを陶器に取り入れた「蜂蛹系列」、注ぎ口がない急須、注ぎ口だらけの急須……緑豊かな木々に囲まれた烏來のアトリエに置かれた作品は、どれも遊び心に満ちていた。

%e2%97%8bckl_1906low


石古不化粉絲團
台湾代理人:張なつみ
電話0930320088
URL:LINK


取材・文:編集部/写真:彭世杰

(2016年7月号掲載)

もどる

広告

コメントを残す