第33回 日本人でしょ?

うちの近くの公園です。

ロータリーのように丸くなった広場があって、そこでは毎日何十人ものお年寄りが大音量のスピーカーから流れる掛け声にあわせて運動してるんですが、ある日、散歩がてらにそこを通ると、まったく風景が変わっていました。
集まってる人たちがいつの間にか若返っていたんです。手にはスマホ、目はそれに釘づけ。みんながみんなそんな感じなんで、傍から見ていてちょっと異様な光景でした。
でも、すぐにわかりました。
ここのところ話題になってるやつ、ポケモンGOです。
ぼくもニュースなんかで、ポケモンGOが世界的に盛り上がってることは知ってたし、それが台湾ではじまったことも知ってたんですが、聞きしに勝る盛況ぶり。で、いったい何がそんなに彼らを熱狂させるのか。ぼくの好奇心が一気に頭を擡(もた)げてきたのでした。
ちなみに、そのときぼくはポケモンGOの遊び方を知りませんでした。それどころかポケモンもほとんど知らない。っていうか、知ってるのはピカチュウだけ。
で、このことを台湾人の友達に話すと、こんな説明が。
「みんなポケモンを探してるんだよ。見つけたら、ボールを投げて、うまく命中したら捕まえられるから」
「ボールを投げる?」
「だから、アニメの中で投げてるでしょ」
「そうなの?」
ところが、ぼくのこの答え、彼女は想定してなかったらしく、「えっ、知らないの? 日本人でしょ?」と、何か物珍しいものを見るような目つきで、ぼくのことを見たのでした。

「日本人でしょ?」というのは、ときどきいわれることがあります。
台湾の人からすると、日本人ならこれは知ってて当たり前と思うことを、ぼくがたまたま知らなかったりしたときです。
でも、知ってて当たり前という基準についてはかなり無茶苦茶なこともあります。
たとえば、日本のどこか地方の小さな町へ旅行に行って帰って来たばかりの台湾人の友達から「あそこはいいよね」なんていわれたとき。「それどこ?」なんて返事すると、「えっ、知らないの? 日本人でしょ?」が飛んで来る。
ほかにも公務員の給料はいくらかとか、東京の市街地の不動産価格はどのぐらいとか。
もちろん、ぼくは公務員をやったこともないし、都内に不動産なんて持ってないので、そんなこと知るわけもないんですが(こういうのって、ぼくじゃなくてもほとんどの日本人が知らないと思うんですが……)、そんなことはあまり関係ないらしく、日本人だったら知ってるはずだと思う人もいるようです。
そして、ぼくにとって、この現象がもっとも顕著に現れるのが日本のドラマやアニメの話をしたときです。
普段から日本のドラマやアニメを見ないぼくは、彼らの話にほとんどついて行けません。一方、彼らのほうはというと、それが三度の飯より好きだったり。そんな彼らからすると、ぼくの反応はもどかしいというか、いらいらが募るんでしょう。というわけで、たびたびぼくは日本人であることを疑われてしまうのです。
さて、前述のようなケースで「日本人でしょう?」といわれて、ぼくはどう思うかというと、これがそんなに気にはなりません。「オレはドラマは見ないんだ。アニメも見ない」と、ある意味開き直ることができるからです。
ところが、そうはいかないケースもあります。
ぼくから見ても、日本人なら常識的に知ってるだろうと思われることを聞かれた場合です。
東京の人口ってどのぐらいとか、消費税って何パーセントとか、今年平成何年とか……。
大まかなところはわかるんだけど、普段身近に接してないから自信がない。こんなときは何ともいえない劣等感を感じながら、適当なことも言えないし、「うーん、それは……」とか何とかいってお茶を濁すのです。
台湾に長く住んでて、こんな経験をしたことのある日本人。きっとぼくだけじゃないと思うのですが……。

2016年10月号掲載

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