陳財華さん 台湾人の朝ごはんを支えるスペシャリスト

 

wckl_9281
陳財華さん ミャンマー生まれ、新北市在住 飲食店勤務 26歳(1990年生まれ)

取材・文:高橋真紀/写真:彭世杰

陳財華は台湾ではおなじみの早餐店(朝ごはん屋)で働く26歳。毎朝6時半から鉄板の前に立ち、驚くべき手際の良さで、サラリーマンや学生さんたちの朝を支えている。実はミャンマーで生まれ育った華僑のため、中国語にも不慣れだという彼。テキパキと仕事をこなす裏には、言葉や料理について陰で勉強を重ねる努力家の顔があった。何気なく触れ合う店員さんの意外な素顔を知れば、台湾式朝ごはんの味もまた、一味違ったものになるかもしれない。(文中敬称略、以下同)
台湾を訪れたことのある人ならば、一度は「早餐」と看板を掲げた朝ごはん専門のお店を目にしたことがあるはずだ。台湾式おにぎり、油條と呼ばれる揚げパン、豆乳や大根餅を扱うお店で、特筆すべきは料理が出来上がるまでのスピードの速さ。台湾独特のファストフード店である。
朝7時ごろにもなると会社に通勤途中のサラリーマン、学校に向かう学生さんたちが道すがら買っていくのも、台湾ではおなじみの光景。書き込み式のメニューを置いている店もあるが、ほとんどの客は口頭で次から次へとオーダーしている。ラッシュ時には長蛇の列ができる中、オーダーを聞いては休まず手を動かし、的確に朝ごはんを手渡す店員さんの手際の良さには惚れ惚れする。
今回紹介する陳財華は、その朝ごはん屋さんで店先に立つスペシャリストだ。台北市内のオフィス街の真ん中にある店で鉄板の前に立っている。働きぶりはベテラン然としているが、お店に入って今年で4年目。きっかけは同じお店で働くガールフレンドの紹介だそうである。

wckl_9275
おかみの游淑芬さんと同僚の李美秀さんと。朝はこの3人のメンバーで切りまわす。


華僑としてミャンマーで育った幼少期

陳財華は台湾で使われている中国語をうまく話せない。なぜならミャンマーで生まれ育った華僑で、ルーツが広東にあるため、家庭内の会話はすべて広東語だったからだ。現在台湾には5万人以上のミャンマー華僑が暮らしていると言われているが、彼の父親もまた8888民主化運動※をきっかけにミャンマーから台湾へ移り住んだ。20歳になった陳財華が父を頼って台湾にやってきたのは、2010年のことだ。来たばかりのころはとにかく言葉に苦労したという。


住まいは台北市の隣・新北市にある南勢角という所にある。ここは台湾でもっとも多くミャンマー華僑が住んでいる場所で、日常生活では言葉の心配はない。ミャンマー料理や雲南料理の店が立ち並ぶ「緬甸街(ミャンマー街)」というストリートもあり、陳財華の自宅はそのすぐ近くにある。ちなみにこのミャンマー街では本国に倣った季節のイベントも開催されていて、ミャンマーの暦で年越しを迎える毎年4月ごろには、「撥水節」という行事が行われる。「水をまいて、前の年の厄を落とすという意味があるんです。僕も毎年参加しています」。
幼いころから料理に興味があり、10歳くらいのころには、見よう見まねでチャーハンや焼きそばを作るほどだったという。ミャンマーではよく母親と一緒に市場に買い物に行った。
「家では広東料理を食べることが多かったけれど、一番好きなのは日本料理。コロッケとか、カレーは家で作ることもあります」
お店にはもちろん日本からの観光客もやってくる。その時のために「卵いりますか?」という日本語を覚えた。中には不思議そうに鉄板さばきをのぞき込むお客さんもいるそうで、「じっと見られると、緊張して間違えそうになるんです(笑)」と照れくさそうに話してくれた。

※1988年にビルマ(現ミャンマー)で行われた民主化要求運動。

技術とサービスの向上へ努力の日々

朝6時半に開店するお店に立つため、毎朝5時に起床する。南勢角の駅からMRTに乗り、片道約30分かけて通勤している。お店が始まると鉄板の前に立ち、休みなく料理を作るのだが、この技術やオーダー処理も、働き始めたころにはたどたどしいものだったそうだ。「最初はオーナーに教えてもらいながら、自分なりに本やインターネットで料理の勉強をして、家で練習もしました」。始めは中国語もおぼつかないので、メニューに記入してもらい、それを見て料理を作っていた。お客さんとの会話を通して中国語も上達し、さらに記憶力も進化してきたという。
「注文が入ったらすぐに料理を作り始めるのがコツです。そして緊張すると間違えるので、焦らないこと。お店の仲間の助けも大きいです。集中力を高めるために、最近は寝る前にヨガをやっています。そうすると、記憶力や仕事のスピードも上がるんです」
店では接客や在庫管理なども行う。朝番なので午後2時半に仕事終了となる。店を上がるとゆっくりご飯を食べるのが楽しみ。自分が家で腕をふるうこともある。もちろん外食も多く、台湾グルメで一番好きなのは牛肉麺。外食の時にはただ食べるだけでなく、美味しい料理のコツを学ぶ気持ちだという。

wckl_9235
台湾の定番・早餐店。外観やメニューは似ているようでも実は各店舗ごとに特色がある。陳さんの店の自慢は、100%手作りの燒餅と油條。大豆は非遺伝子組換の最高級品を使用している。

wckl_9288「日本の高級鉄板焼きのように、ショーのように見せて、かつ美味しい料理を作れるようになりたいんですよね。それに朝ごはん屋はスピードが命。早くて美味しい、を両立しないと、お客さんは来てくれません。もっと早く美味しく作るにはどうしたらいいか、常に考えています」
常連客が多いので、朝ごはんを買ってくれたお客さんが、昼休みに通りかかると笑顔であいさつしてくれたり、友達や家族のように話しかけてきてくれるのがうれしい、と陳財華。接客や料理へのプロ意識から察して、将来は自分のお店でも持つのだろうかと水を向けると、「いや、商売は難しいから」と現実的な答えが返ってきた。
「食べ物というのは体に直結しているものだから、美味しくて体にいい料理を届けたい。今のところはそれが目標ですね」

 

 

wckl_1223
新北・南勢角にあるミャンマー街。

(2016年11月号掲載)

 

もどる

広告

コメントを残す