第35回 引っ越しの話

最近引っ越しすることになりました。

振り返ってみると、引っ越しはなんと11年ぶりのことです。

日本とくらべて台湾は安く引っ越しができるので、ぼくなんか来たばかりのころは、数か月ごとに引っ越していました。が、それが長くいるにつれて物も家族も増えて、そう簡単には引っ越しできないというか、できればしたくないと思うように。
ところが、今回は大家さんがぼくの住んでるところを、息子夫婦に住まわせたいということで、ぼくらは出ていくことを余儀なくされたのです。
さて、久しぶりに家探しをしてみて、まず驚いたのが家賃です。
実はぼくが住んでるところ、入居時に賃貸契約というものを交わすには交わしたんですが、契約満了になっても契約の継続というのをしていません。だから、11年間入居したときの家賃でずっと来ていました。で、その家賃がぼくの中ではひとつの基準になっていたんですが、とんでもない時代錯誤でした。
この11年間に台北の家賃は驚くほど上がっていたのです。
ぼくが住んでるところよりも、条件的にどう見てもランクは下で、しかも丁寧に使ってないもんだからボロボロな家が、信じられないような強気な家賃。
大家さんいわく、
「最近は物価も税金も上がってるし、しょうがないね」
うーん、でも、給料は上がってないんだし……。思わず突っ込みたくなりましたが、悲しいかな、これはたぶん聞いてもらえない。
ところで、以前から思ってたんですが、台北の不動産価格って、みんな買ったときから下がることはないと確信してるようです。家は古くなっても、価格は上がって当たり前。どうもそれが台湾社会の一般常識のような気がしてなりません。
ほかにも気づいたことがあります。
貸し出す家について、どの大家さんも例外なく、いいことしかいいません。
まあ、少しでもいい条件で貸したいという気持ちはわかるので、それを否定しようとは思いませんが、それにしても都合の悪いことは一切いわないというか、それ自体がまったくなくなってる。その見事な「消えぶり」は感心してしまうほどです。
たとえば、築40年以上、エレベーターもなくて都市ガスも来てない。小さいのにくわえて間取りも悪く、窓の外はとなりの家がすぐそこまで迫ってるような家。それでも大家さんは「ここは交通が便利だから」の一点張り。
さらに、都合が悪いことを突っ込まれたときも、「えっ、こう来たか」と思うような切り返し。
「この部屋、クーラーは付けてもらえるんですか」と聞くと、「ここはホントに涼しいんだよ。だから大丈夫」とか、外は一面ハトの糞害にやられてるのを見て、「こりゃひどいね」というと、「ハトは平和の鳥だから、縁起がいいかも」とか。
とにかく「ホントにそうなの?」というような答えが平然と返ってくるのです。
でも、こういう大家さんが悪い人かといえば、決してそんなことはありません。
彼らがこんなふうにいうのも、おそらく、交渉の段階でひとつでもよくないことがあると、とことんそこを突いて家賃を値切る人がいるからじゃないでしょうか。だからそれに対する防波線。そんな感じだと思います。
というのも、交渉ではああでもないこうでもないといってる大家さんですが、その合間に世間話をすると、急に親切な一面が垣間見えたりすることもあるからです。そして中には、家賃を少し下げてくれるなんてケースも。で、一転して「いい人じゃん」と思ったり。
ただ、せっかく下げてくれた家賃も、ぼくの予算とはかなりの開きが……。
結局、大家さんの好意に申し訳ないと思いながらも契約には至らず。台北の物価の高さを恨みながら家探しは続くのです。
この原稿が掲載となるころには無事、新居が見つかってることを願ってます。

(2016年12月号掲載)

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