素顔の台湾人 Vol.28 「台湾にもう一度恋した」 二足のわらじで雑誌を制作  

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魏佑竹さん

台北市生まれ、台北市在住
『台味誌』クリエーティブディレクター、インターネット広告会社ライター  29歳

取材・文:高橋真紀

今年9月に創刊された雑誌『台味誌』のスタッフ魏佑竹は、毎日別の会社に出勤しながら同誌のクリエーティブディレクターをこなしている。睡眠時間を削ってでも作りたいのは、台湾人として台湾らしさをもう一度考える雑誌だ。彼女を雑誌づくりに導いたのは、その文才と行動力を見抜いた元同僚だった。多忙を極めて休みはないけれど、充実した毎日。台湾の今を象徴する自由な方法で道を切り開くクリエーターに、仕事への情熱を聞いた。
『台味誌』という、ちょっと面白い雑誌がある。一冊の表裏に二つの表紙があって、ちょうど半分が中国語、もう半分が日本語で構成されている。2016年9月30日に発行された創刊号の特集テーマは「早餐(朝ごはん)」。オールカラーでイラストもたくさん入った誌面は眺めているだけでも楽しい。台湾式の朝ごはんについて、50ページ以上にわたって掘り下げたディープな内容も、他誌にはない魅力を放っている。


どんな人が作っているのだろう。そう思いながら、取材に応じてくれた魏佑竹を待っていると、現れたのは想像以上に若くかわいらしい女性だった。「Jude(ジュード)と呼んでくださいね」と自己紹介されたが、確かにそちらの方がよく似合う。仲間のことも英語名で呼んだ。
「雑誌は基本的に、私を含めて3人のスタッフで作っています。デザインも手がけるRyan(ライアン)が発起人で、編集長はWen(ウェン)。私はクリエーティブディレクター担当です」
3人ともまだ20代(取材当時)だというから驚きだ。発起人のRyan(ライアン)は高雄出身の男性。かつて同僚だったRyanが、ある日パワーポイントで作った資料を広げて、Jude相手にプレゼンを始めた。“台客(タイコー)”“台味(タイウェイ)”、つまり台湾らしい人というのはどういうことか、台湾にはどういう文化が根付いているのか、たくさんの人に紹介したいとずっと思っていた。そのための活動を手伝ってほしい、という話だった。
「具体的に何をするかまだ話していないうちから、二つ返事でOKしました(笑)。Ryanはとても魅力的で、何か一緒にやりたいと思わせてくれる人だったから。彼もすごく驚いて『本当に? 大丈夫なの??』と 何度も確認してましたね(笑)。私って昔からそうなんです。まずはやってみよう、話はそれからだ、というタイプ」

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『台味誌』の中心メンバー。左からJude、発起人のRyan、編集長のWen。

編集経験のあるWenが加わり、身近なところから台湾を認識しようという活動、台味プロジェクトがスタートした。雑誌はその表現方法の一つである。
編集担当は基本一人なので、多くのクリエーターが文章やイラストを提供してくれている。資金が少なく、「原稿料が安くて申し訳ない」と恐縮するJudeだが、人気のあるイラストレーターやライターも、自分たちの生活に密着した雑誌のテーマに賛同し、喜んで参加してくれている。特集に関するグッズも彼らの協力を得て制作した。

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幼いころよく遊びに行った母の実家で、父の腕に抱かれるJude。

中国語にプラスして英語ページがある雑誌は少なくないし、一部なら日本語ページがある媒体もあるが、全ページ日本語で、中国語とまったく同じ内容を掲載している雑誌は見たことがない。「日本とのつながりが深いので、日本の読者にも台湾について知ってほしいと思いました」。その思いも、細部まで日本語で読めることも、我々日本人にはありがたいことである。

睡眠4時間で会社と掛け持ち

「昨日は午前5時に寝て、午前9時には起きました。会社に行かないといけないから」
Judeの日常について聞いていたら、耳を疑う発言が出てきた。なんと現在もネット広告の会社で働いているというのだ。月曜から金曜の朝10時半から20時ごろまでフルタイムで出勤し、残りの時間で『台味誌』の打ち合わせや編集作業、周辺グッズの企画・制作およびグッズと雑誌の営業・宣伝までこなしているという。創刊号は第一印象と同じでとても重要だと考え、執筆も担当した。
道理で忙しいわけだ。取材中も彼女のSNSは絶え間なく受信音を発していた。雑誌のレイアウトデザインも手がけるRyanだけは会社を辞めて今のプロジェクトに専念しているが、編集長のWenも兼業組。作業はとにかく効率を重視して、打ち合わせもわざわざ集まるようなことはせず、LINEやMessengerで行っているそうだ。ただし、どんなに効率よく進めても、締め切り前は睡眠時間を削るしかない。その上いま現在、彼ら3人はまったくの無償で雑誌を作っている。
「『台味誌』を作ることで、もう一度台湾に恋をした」というJudeは台北出身。両親は客家人で、実家は信義区の台北101付近にある。「今は都会だけど生まれる前は田んぼばかりで、小さいころに商業エリアが開発され始めました」。1997年にできた新光三越の中を、小学生時代に走り回っていた記憶があるというから、まさに台北の発展とともに成長した世代なのである。


「子どものころからじっとしていられない性格で、好奇心旺盛でした」。好奇心から、2年ほど前にネット上で文章を書き始めた。その文章が編集者の目に留まって原稿を依頼されることもあったそうだ。その後友人のインディーズバンドを手伝うようになり、いろいろなバンドの背景にあるストーリーに興味を持つようになる。文芸サイトに専用ページを開設し、バンド紹介の記事を書くうちに、執筆を依頼される機会が増え、世界がぐんと広がったという。自ら動くことで面白いことが起こる。身をもってそのことを知っているJudeに、台味プロジェクトの誘いを断る理由はなかったのだ。
『台味誌』は2カ月に一回、まずは第3号まで発行する予定。今後のテーマは「髒話(スラング)」、「珍珠奶茶(タピオカミルクティー)」とますますディープになっていく。
「最初の3冊を作ってみて、その先はまた考えます。まずやってみて、その過程でわかることがたくさんあるから。自分自身の将来についても、まだわかりません。今は企業に入るだけではなく、それぞれが自分の可能性を探っていろいろな働き方をする時代。私もいつかは独立できたらいいなと思っています」
自分の直感を信じて、前へ前へと進む。たくましいJudeの姿と、地元愛にあふれた『台味誌』を見ていると、台湾の未来は明るいと思えてくるのだった。

(2017年1月号掲載)

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