台湾が世界に誇る紅茶「蜜香紅茶」の郷を訪ねて~ 花蓮県瑞穂郷舞鶴台地

文・写真:片倉真理(かたくらドットねっと)

1. 山肌に一面に広がる茶畑。

多くの人を魅了してやまない台湾茶の世界。従来の烏龍茶に加え、最近は台湾産紅茶も耳目を集めている。今回は台湾東部の花蓮県瑞穂郷で栽培される「蜜香紅茶」について紹介してみたい。



蜜のような甘い香りの紅茶

台湾の東部。緑の山々に囲まれた舞鶴台地は茶どころとして名を馳せている。一面に広がる茶畑では茶摘みの女性たちが手を休めることなく働いており、茶葉は地場産品として耳目を集めている。1970年代から政府主導で台湾茶の栽培が積極的に進められ、現在は「天鶴茶」というブランドで全国的な知名度を誇る。

近年は烏龍茶のみならず、「蜜香紅茶」という紅茶も話題となっている。花蓮は「無毒農業」と呼ばれる自然農法が盛んな土地で、夏になると茶畑にも「ウンカ」と呼ばれる小さな虫が発生する。この虫が噛んだ茶葉を用いて高発酵の茶葉を作ったところ、熟成したフルーツや蜂蜜のような甘い香りを持つようになった。これをさらに改良したものが「蜜香紅茶」である。ちなみに、新竹特産の東方美人茶も同じく「ウンカ」に噛まれた茶葉を用いるが、茶樹の種類や製法、発酵度などが蜜香紅茶とは異なる。
当初はウンカによる被害が茶農家を悩ませていたが、蜜香紅茶の開発によって状況は一変した。市場の反応も最初は冷たかったというが、品質向上を目指した不断の努力で、今や舞鶴台地を代表する産物となっている。まさに「災い転じて福となす」といった状況だ。

世界的な評価を受けた東昇茶行の蜜香紅茶

現在、舞鶴台地には数十軒の茶農家がある。その中でも広く知られているのが「東昇茶行」。ここの蜜香紅茶は2006年と2010年に国際コンテストで金賞を受賞するなど高い評価を受けている。女性オーナーの粘阿端さんによれば、ウンカが茶葉を噛めば噛むほど香りが良くなるとのことで、茶畑では化学肥料を一切使用していないという。
製茶作業は想像以上の労力を要する。まずは手摘みした茶葉を竹ざるに万遍なく並べ、室内で20時間くらい寝かせる。この状態で発酵を進ませた後、丁寧に茶葉を揉み、中の茶汁が葉の表面にも付くようにする。さらに2時間半ほど寝かせ、葉が赤みを帯び、フルーティーな香りがしてきたら、乾燥機、または焙煎機に入れてようやく完成となる。全行程で考えると36時間近くもかかるという。店では行楽客が気軽に茶摘みや製茶を体験できるコースも用意しているので、興味があればトライしてみよう。

戦前にはコーヒー栽培も行なわれていた

東昇茶行は日本とも深いつながりをもつ。ここ舞鶴台地は日本統治時代に国田正二という人物がコーヒー産業を持ち込み、栽培を行なっていた。河岸段丘の地形と朝晩の寒暖差が良質なコーヒーを生み出し、皇室にも献上されたことがあるという。
残念ながら戦後を迎え、コーヒー産業は衰退してしまったが、東昇茶行の敷地内には当時植えられた樹齢80年というコーヒー樹が大切に守られている。数年前には国田氏の功績を称えた銅像も建てられ、子息もこの地を訪れたという。
昨今の台湾は空前のカフェブームとなっており、台湾産のコーヒー豆も注目を集めている。東昇茶行でも国田氏を記念してコーヒー栽培を復活させている。そして、コーヒー豆と蜜香紅茶を混ぜた「藏紅鴛鴦咖啡」というユニークな商品も人気があるという。これはコーヒーの苦みと蜜香紅茶の甘さが絶妙な交じり具合を見せている。

若きオーナーが手がける客家の伝統茶

7. しゃれたカフェのような喫茶空間。

そのほか、舞鶴台地には2016年に行政院農業委員会農糧署に優良茶農家として表彰された「吉林茶園」もある。ここでは四代目の若きオーナー、彭瑋翔さんが従来の茶農家とは異なる幾つかの試みを手がけている。その一つが店先に喫茶空間を設け、自家栽培のコーヒーや蜜香紅茶を提供していること。 また、客家に伝わる「酸柑茶」もアレンジしている。
舞鶴台地は桃園や新竹など、台湾北部から移住してきた客家(はっか)系住民が多く暮らしている土地。彭さんの父親も客家人で、母方はアミ族だという。

酸柑茶はミカンの中に茶葉を入れて蒸したもの。咳止めや喉の腫れに効能があると言われ、漢方薬の一種として扱われることも多い。彭さんは土地の特産品である無農薬レモンと蜜香紅茶を用い、「檸檬酸柑茶」を開発した。レモン風味の紅茶は飲み心地が爽やかで誰にでも受け入れられそうだ。客家人に伝わる知恵と自らのアイデンティティーを大切にしたいというオーナーの気持ちが伝わってくる。
舞鶴台地では自然の恵みと人々の知恵が奥深い台湾茶の世界を織りなしている。東部幹線の瑞穂駅からは車で10分くらいの距離なので、ぜひ訪れてみよう。

(2017年2月号掲載)


w予備・アクセスアクセス
台北駅から台湾鉄路(在来線)の東部幹線に乗車し、瑞穂駅で下車。普悠瑪(プユマ)号、または自強号で所要約3時間~4時間、運賃は583元。瑞穂駅から東昇茶行までは車で約15分、吉林茶園までは車で10分ほど。

東昇茶行
住所:花蓮県瑞穂郷中正南路二段256号號
TEL:03-887-1878
吉林茶園
住所:花蓮県瑞穂郷舞鶴村七鄰迦納納二路169號
TEL:03-887-1463


もどる

広告

コメントを残す