台灣麒麟啤酒(股)公司 董事長兼総経理 濱 利仁 氏

〇開版頁CKL_1752

Profile
濱 利仁 (はま としひと):1991年、キリンビール入社。広島工場勤務を経て、93年より埼玉支社で営業職に従事。97年、同支社営業企画部異動を経て2002年、首都圏地区本部の営業企画へ。03~09年本社人事部勤務の後、取手工場で総務マネジャーを務める。キリンホールディングスの経営戦略部を経て、13年、キリン㈱本社人事部へ異動。17年、台湾キリンビール董事長兼総経理に就任。

台灣麒麟啤酒股份有限公司
http://www.kirin.com.tw

取材・文:馬場克樹/写真:彭世杰

人事畑の経験生かし、
個々人の成長を組織力に
創立30周年に向け
前任の築いた土台に「血を通わす」

 

〇CKL_1719
1996年に「乎乾啦(ホダーラ)〜」のフレーズでおなじみのテーマソング「流浪到淡水」に乗り、キリンビールの「一番搾り」が台湾で大ヒットしてから早くも20年。当時のイメージキャラクターは人気映画監督・脚本家の吳念真(ウー・ニエンジェン)だった。昨年、台灣麒麟啤酒股份有限公司(以下「台湾キリン」と略称)は、若手実力派俳優の吳慷仁(ウー・カンレン)を新たなイメージキャラクターに起用し、中高年層のビールという「一番搾り○R」の従来のイメージ刷新を図った。
一方、2002年には若年層をターゲットとした台湾オリジナルブランド「BarBEER」を発売、2009年からは「生茶」と「午後の紅茶○R」で飲料市場に参入、さらに2012年と2014年にはチューハイの「氷結○R」、「本搾りTM」もそれぞれ投入するなど、台湾市場での顧客層や商品の多様化も着実に進めてきた。台湾キリンの董事長で総経理の濱利仁(はま・としひと)氏に、来年創立30周年を迎える台湾キリンのブランドコンセプト、台湾市場の今後の展望などを伺った。
今年(2017年)の元日、台湾キリンに着任した濱総経理は、その真摯(しんし)な人柄、企画・人事畑で培った発想力と観察眼で、台湾キリン約80人のスタッフを率いている。3.11東日本大震災では、茨城県の取手工場で勤務中に被災するが、総務の管理責任者として工場の復旧を支援した。それが一段落すると、キリンホールディングスの本社経営戦略部に異動、日本の飲料ビジネスをまとめる中間持ち株会社「キリン株式会社」の設立プロジェクトに参画し、2013年1月の設立と同時にキリン㈱人事部への異動。そして、満を持しての海外赴任地が台湾となった。
20数年前の就職活動の際に、「さまざまな土地の人々や新しい文化と出会えるのが魅力的だったので、あえて転勤の多いキリンビールを選んだ」という濱総経理。ライフスタイルが日本とは異なる台湾で、どのように消費者のニーズを把握し、どのような市場戦略を持っているのか。まず、日本と台湾の飲酒文化の違いから尋ねてみた。
「日本には仕事帰りに居酒屋などで同僚と一献傾けるという飲酒文化がありますが、台湾では『應酬(インチョウ)』と呼ばれる取引先との付き合いを除けば、家族と一緒に過ごす時間をより大切にしています」
台湾でアルコールを摂取するコア層は40〜50代。ただ、実際の飲酒比率は全体の4割程度と低く、人口も日本の5分の1程度の台湾外食産業での市場はそれほど大きくはないのが現状だ。では、台湾の消費者のニーズはどこにあるのか。

台湾人の飲酒文化に合わせ商品展開

濱総経理は、業界用語の「胃袋が需要の元」という言葉を引用しつつ、台湾の消費者の胃袋が求めているのは、ビール一辺倒ではない多様な商品であると語った。日本での売れ筋商品である「氷結○R」「本搾りTM」といったチューハイを相次いで導入した理由もここにある。台湾におけるチューハイの市場はアルコール飲料市場の数%のみだが、すでに一定の顧客層があり、毎年10%強成長している市場なのだ。次いで、台湾でのコアターゲット層やブランドコンセプトについて聞いてみた。


「台湾も少子高齢化が進んでおり、若年層をいかに引きつけるかが課題です。18歳から合法的に飲酒が可能な台湾では、飲酒文化の入口にいる若い消費者に気軽に商品を手に取っていただき、その後も愛飲し続けていただく基礎をいかに固めるかが重要です」
このため、低価格で若年層をターゲットとした「BarBEER」に加え、主力商品「一番搾り○R」でも、例えば「春そよぐ缶」という桜をイメージした華やかなパッケージの季節限定商品を発売。また、より日本茶らしい味わいを追求するとともに、和のテイストの洗練されたボトルデザインにリニューアルした「生茶」も、台湾の若い世代の共感を呼んでいる。このようにさまざまな商品を通じてキリンブランドを台湾社会に浸透させたい考えだ。
競合商品に対する台湾キリンブランドの強みについてはこう説明する。例えば「BarBEER」の価格帯は、台湾ビールの主力商品の一つ経典と同じで、もう一つの主力商品・金牌よりも若干低く設定されている。また、店頭で目を引く鮮やかなイエローにスタイリッシュなロゴをあしらったパッケージも好評だ。この戦略が効を奏し、「BarBEER」は若年層の消費者にとって手に取り易い身近なビールとして台湾の市場に定着した。一方、キリンの主力商品「一番搾り○R」も、日本を代表するプレミアムビールの先駆けとして親しまれている。「日本で製造した高品質のビール」とお客様の評価も高く、販売面も2016年は前年比で二桁増と好調だ。

ブランドとは、「お客様にとっての価値」

自社のブランドコンセプトについては、次のように紹介してくれた。
「単に商品が美味しいというだけではなく、かつてあの場面でキリンの商品を飲んで勇気付けられた、うれしかったというお客様ご自身の体験が、継続的な消費行動につながっていきます。価値は最初から備わっているものではなく、『お客様の体験』から生まれるのです。また、SNSが発達した台湾社会では、そうしたお客様ご自身の体験がSNSを通じて拡散されていくことも重要です」

kirin_0322_naruhodo
企業が自社ブランドの優位性を一方的にPRしても、現代の消費者が直ちに商品に飛びつくとは限らない。広報メディアの軸足も、テレビからインターネットへと急速に移行している。消費者が自分で体験したエピソードをSNSで自分自身の言葉で語り、それに共感するフォロワーが増えることで情報が拡散していくのが今の時代だ。商品そのものよりも、商品の背景に描かれる物語がより重要になっている。昨年、呉慷仁が主演した「一番搾り○R」のCMは、まさに主人公の体験と商品との関係性が主題であった。このCMはこの10数年来「乎乾啦(ホダーラ)〜」のイメージで固定されていた「一番搾り○R」の印象を根本的に刷新した。呉慷仁が台湾の「金鐘奨」で最優秀男優賞を受賞したことも、この起用に花を添えた。2016年の3本シリーズのこのCM映像は、自社のフェイスブック内だけでも総閲覧数が300万回にも達し、当初の予想を大きく上回った。

人を見るプロに聞く、キリンに求められる人材とは?

ところで、来年創立30周年を迎える台湾キリンはどのような人材を必要としているのだろうか。濱総経理は、「明確な目的意識と協調性のある人物である」と前置きした上で、こう続けた。

「キリングループの掲げる“One Kirin”Values:熱意と誠意Passion and Integrity”、すなわち、常に挑戦し続ける姿勢と何事に対しても誠実に向き合うという価値観を共有できるかが求められます。また、社員は仕事を通じて成長するものです。たとえマーケティングのスペシャリストであっても、ラベルのデザインや法律の問題といった周辺分野の業務も経験することで、より専門性の高いプロフェッショナル人材に成長すると考えています」
台湾での執務に当たっての個人的なビジョンについては、「KV2021(Kirin Group Vision 2021)」というグループ全体の長期経営戦略に沿って、前任の築いたマネジメントの土台・仕組みといったハードに対し、人材を中心としたソフトをフィットさせることで、台湾キリン独自のポジショニングを確立すること、会社に血を通わすことが自分の役割であると濱総経理は語る。また、社外のステークホルダー、社内の従業員の双方からの信頼を得ることこそが企業ブランドの基礎であり、そのための環境作りが自身の仕事と自認する。先人たちの仕事に敬意を表しつつも、あくまでも自分はその仕上げや環境整備をするのみであるという謙虚な姿勢を貫く。最後に濱総経理のビジネスの理念、座右の銘を聞いてみた。
「ビジネスの世界では『信頼』が最も大事です。まずは約束を守る、自分がすべきことをすることです。座右の銘は曹洞宗の祖、道元の言葉で『全機現』です。これは細胞、機能のすべてをフル稼働してなすべきことをなすという意味ですが、組織では現有勢力で最大限の効果を上げるということに通じます」
これも実に明快な回答である。濱総経理の明確な理念と謙虚な言動の裏側に潜む揺るぎない自信は、まさにこの言葉に裏打ちされている。

(2017年4月号掲載)

 

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

%s と連携中