黑嘉嘉 ヘイ・ジアジア

02-0805_2

強く美しい、天才棋士がさらなる高みへ

最近、台湾で何かと話題に上る囲碁のプロ棋士、黑嘉嘉(ヘイ・ジアジア)。2017年8月に行われた第3回台湾女子囲棋最強戦では3連覇を達成。これまでも国際プロ棋戦で立派な成績を収めてきた黑嘉嘉は、台湾で初めて、三星火災杯世界囲碁マスターズ(※)のワイルドカードに選ばれて出場したプロ棋士でもあります。昨年の12月には芸能界デビューも果たし、新人ながらもCM契約本数はすでに3本。彼女に対する注目度の高さは、芸能界にも新たな波を起こす予感がします。さらなる活躍が期待される彼女にお話を伺いました。

※三星火災杯世界囲碁マスターズ:韓国棋院が主催する国際棋戦。

─女子囲棋最強戦で3連覇達成、おめでとうございます。

「ありがとうございます。実は第1回以外、第2回の時と今回は一度負けてしまい、敗者復活戦から決勝戦に進出し、優勝したんです。前半と後半の対局では少し違いがあり、一人の持ち時間は前半戦1時間、後半戦は2時間です。この時間差に少し影響されます。どちらかというと、自分はゆっくりした打ち方のほうが得意ですね」

─囲碁を始めたきっかけは?

「最初は五目並べを学びたかったのですが、当時、五目並べの教室がなかったため、母が私に囲碁の体験レッスンを見学させました。一緒に見学に行った姉にとっては、つまらなかったようですが、私は囲碁が面白いと思い、好きになりました。子どものころは体操、ダンスなどいろいろな習い事をしましたが、その中で囲碁に一番興味がありました」

─プロ棋士を目指したきっかけはコミック『ヒカルの碁』だとお聞きしました。

「8歳の時に『ヒカルの碁』のアニメを見ました。当時すでに囲碁を2年続けていたので、作品を見て、主人公のようにプロ棋士になりたいと思いました。作品中の棋譜(☆)はすべて実在の人が打った棋譜です。アニメで対局のシーンが映る際は、いつも手筋や定石を研究していました。ちなみに時々、同じ相手との対局なのに、次のシーンでまったく違う棋譜になることもありました(笑)」

1

─では、主人公と同じように「神の一手を極める」ことを目指していますか。

「そうですね。やはりそれはちょっと非現実な話だと思います。神の一手を極めるのは、非常に困難です。特に囲碁用の人工知能が開発されてから、今まで誰も思いつかなかったような一手が出てきました。囲碁に対しての認識を再び考え直す必要があると思います」

─どうやって棋力(きりょく)(☆)を上げてきたのでしょうか。

「6歳から11歳までは台湾で囲碁を学んでいました。それから11歳の時にアメリカに行きましたが、アメリカでは囲碁を教えてくれる先生が見つからず、対局する相手もいなかったので、インターネット囲碁(以下、ネット碁)でたくさんの人と対局することで自分の腕を磨きました。その時はほぼ独学でしたね」

─ネット碁と、実際に対面しての対局はどう違いますか。

「一番違うところは、ネット碁は打つ手が早いことです。一手は大体20秒です。私は対面で一番長い対局は7時間もかかったことがありますから、時間的にかなり差があります。ネット碁は主に直感力を鍛えるためにしています。ネット上には強い相手がたくさんいるので、勝てないこともあります」

2

─ちなみにご自分はどんな棋風(☆)だと思われますか。

「女流棋士の中では比較的穏やかな棋風だと思います。というのは、ほとんどの女流棋士は攻めが強いので(笑)。対局では進行に応じて個々の局勢が変わるため、終盤で逆転されることもあります。時間の制限も原因の一つかもしれません。例えば持ち時間が少なくなって、1分で一手を打たなければならない状況ではミスしやすいと思います」

─対局には大変な集中力が必要だと思いますが、どうやって維持するのでしょうか。

「たぶん小さいころに訓練したおかげだと思います。碁盤の前に座ったら、目の前の碁盤と碁石以外、何も見えず聞こえず、ただひたすら対局だけに集中します。ある時、対局中に地震がありました。かなり揺れたみたいでしたが、私は地震に気付かいないまま対局を続けました(笑)」

3

─囲碁の一番の魅力、また難しいところは何ですか。

「まったく同じ棋譜はないことが一番の面白さだと思います。今まで数千局打っても、同じ内容にはならないですね。無数の組み合わせがありますから。選択肢がたくさんある場合は、どう選んで進むべきかが一番難しいところだと思います。どの一手が正しいか否かでなく、自分の得意な打ち方次第だと思います。一手間違えたら、まったく違う局勢になります」

─特に印象に残った対局は?

「2010年のアジア競技大会が一番印象に残っています。同時に特に大事な対局でもありました。その時の対局の相手は日本で、勝てば女子団体戦で銅メダルを獲れるという局面。でもかなりの劣勢で逆転する可能性は低かったので、中盤で投了(☆)するつもりでしたが、仲間の頑張っている姿を見て、諦めずに踏ん張ることにしました。そして最後は運が良く、相手の幾つかのミスで逆転勝ちしました」

─一番対局したい相手は誰でしょうか。

「やはりAlphaGoですね。開発したばかりの試用段階では負けたことがありますが、それからどんどん強くなり、今では誰もAlphaGoに勝てる人はいません。2016年で韓国棋王の李世ドル九段を負かし、さらに今年は世界棋王の柯潔九段まで破りました。ちなみに柯潔九段を倒したAlphaGoは、後から開発された新バージョン『AlphaGo Zero』には負けました」

Google DeepMindによって開発されたコンピュータ囲碁プログラム。

01-0223

─昨年、芸能界へも進出されたとお聞きしました。

「約20年、囲碁だけを打ち続けてきましたから、新しいことを試してみたい気持ちで決心しました。芸能活動に特に抵抗感はありません。今はまだ勉強する段階なので、発声やダンスなどいろいろなレッスンを受けています。ですが本業は囲碁棋士ですので、国際プロ棋戦を優先するということで、事務所にコンセンサスを得ました」

─囲碁以外で、どんな趣味をお持ちですか。

「スポーツが好きです。小さいころは水泳部でしたし、今もよく泳ぎに行きます。マカオタワーでは、233メートルもある世界一番高いバンジージャンプを体験しました。また父はハンググライダーが好きで、私を連れていきますね」


框  プチ囲碁用語集
棋譜=対局者の手を順番に記入した記録。また、棋譜が記入された用紙を指すこともある。
棋力=囲碁・将棋などの強さのこと。
棋風=ボードゲームにおける着手の特徴。
投了=片方が負けたことを認めて、勝負が終わること。


Profile

1994年生まれ。台湾の囲碁棋士。オーストラリア出身、台湾棋院所属。2008年入段、15年で七段。現在、台湾で唯一七段を待つ女流棋士。これまで第1回穹窿山兵聖杯世界女子囲碁選手権準優勝(10年)、第1回台湾女流囲碁最強戦優勝(15年)、第2回台湾女流囲碁最強戦連覇(16年)、ペア碁ワールドカップ 2016東京準優勝、国手山脈杯国際囲棋戦ペア碁準優勝(17年)など快挙を果たす。そして今年の8月、第3回台湾女流囲碁最強戦で優勝し、3連覇を達成。

(2017年12月号掲載)

広告

コメントを残す