特別コラム:人生を変えた台湾環島

2016年秋、台湾で突如注目を集めた日本人がいるのをご存じだろうか。名前は伊藤千明、18キロのリュックサックを背負い、いわゆるバックパッカーとして台湾を旅した。移動手段は徒歩。テレビで取り上げられたことをきっかけに、片言の中国語を駆使してフェイスブックにアップした旅の模様が反響を呼んだ。楽しいだけではなかった彼女の旅を支えたのは台湾の風景、人情、そして「満漢大餐」。台湾の旅が彼女の人生に与えたものは……?

 

「観光スポットだけじゃイヤ!」~台湾一周、一瞬一瞬を楽しみたい

「台湾、ずっと避けていたんです」

開口一番、伊藤千明さんはそう言った。身長155センチの小さな身体、笑顔が愛らしい彼女がよく旅したのはアジアの発展途上国。バックパックを背負い、一人出掛けていた。その旅のリストに加えるには台湾は都会過ぎた。物足りないのではないかと思っていた。けれど周囲の人は、台湾に旅しては口々に絶賛する。家族も同様だった。次第に心は傾き始めた。「行ってみるのも面白いかもしれない」。

環島(ホワンダオ)――中国語で島を周回すること。台湾では本島をぐるりと回る旅を指す。この言葉を聞くと、なんだか南国の青い空と緑の木々が頭に浮かぶ。心地よい風がふわっと心に吹いてくる。多くの人がそう感じるのか、台湾人の間ではバイクや自転車で回るのが人気であり、近年ではそれに倣う外国人も少なくない。彼女もそんな旅に惹かれた。だがただ一つ、交通手段を持たないという点で彼らとは違っていた。

彼女にとっての旅とは、その土地の何気ない景色を見ること、そこに暮らす人と触れ合うこと。電車やバスで観光地を巡る旅は退屈に思えた。移動時間が無に感じられた。だが歩いて回れば、瞬間瞬間が見知らぬ風景や人々を感じられる旅となる。移動する行程そのものを楽しみかった。

 

「どうして私が有名人に?」~一晩明けたら時の人?

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旅の安全と成功を祈って・・・龍山寺をいざ、出発~!

2016年10月8日、旅の安全を祈願し台北龍山寺をスタートした。まずは西側を南下する。しかし開始早々アクシデントが。警察に連れて行かれたのだ。日が暮れ、桃園のとある公園にテントを張って休んでいた時のことだった。見回りの警察官がやって来てパトカーに乗り込むように促す。

――逮捕される!?

中国語も英語もそれほど得意ではない。派出所に着き、身を案じた警察官が寝床を提供してくれたのだとようやく知った。「台湾人に心配をかけてはいけない」――以降、テントは手放し、夜間に屋外で休むことは止めた。

日月潭へ向かう途中では宿泊予定の寺が改修中だった。今度は自ら派出所に飛び込んだ。うまくコミュニケーションが取れず、次々と助っ人が現れるのは台湾ではよくあること。その中の一人がTV関係者だったらしく、ニュース番組に取り上げられた。

一人ひっそりと旅するはずが、一躍有名人になってしまった。行く先々で多くの人に声を掛けられた。記念写真を撮ってSNSにアップされることは日常茶飯事。高雄では台湾茶を飲みに来ないかと誘われ、墾丁ではバイカ―たちのツーリングに飛び入り参加した。誰も知っている人などいない台湾だったが、一人また一人と手を差し伸べてくれる人が現れた。台湾の人々の温かさを感じた。

 

誰のための旅?」~元気をもらったカップラーメン

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台湾最南端の墾丁

最南端に着き旅も中盤。墾丁から折り返し今度は北上かというころからだんだんと気分は沈んでいった。多くの人に声を掛けられることはうれしくもあるが、妙な気負いも増してきた。自分が楽しくあるために始めた旅なのに、思わぬ注目を浴びて感じるプレッシャー。加えて東部に関する情報は少なく、出逢う人も口々に太魯閣(タロコ)は危険だと言った。気持ちは萎えていった。

そんな時、よく手に取ったのはコンビニの棚に並ぶ「満漢大餐」のカップラーメン。出逢いは旅支度のために赴いた台北のスーパーだった。食品コーナーでイチオシされていたので何気なく手に取ったのだと言う。食べて感激。パウチパックの中にはゴロゴロとした肉の塊。香辛料が苦手な彼女にとってはクセのないスープも口に合った。何より温かいスープは疲れた身体に染みた。それから幾度となく手に取り元気をもらってきた。今回も同じだった。降り続く雨の中、麺をすする。先を考えると憂鬱な想いも過ったが、温かいスープを一口含むと、ほっと心も癒やしてくれた。

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幾度となく元気をもらった満漢大餐のカップラーメン

 

「ヤッター、ゴール!」~そして第二章の始まり

そして再びゴールを目指し歩き始めた。彼女はさぞかし胆の据わった人物なのだろうと尋ねてみれば、「ビビりなんです」と笑う。そして躊躇したという太魯閣がこの旅一番の思い出に残る絶景だったと語る。そんな伊藤さんの旅は2016年12月18日、出発地の龍山寺に戻り、無事ゴールを迎えた。72日間の旅だった。

旅を終え、彼女を取り巻く環境は大きく変わった。現在は予てより計画していた中国語の学習を開始。台南にある国立成功大学の語学センターで日々学習中だ。そしてもう一つ、旅の途中で出逢った台湾人と結婚、新婚生活をスタートさせたと言う。さらにはこの旅で一番のお気に入りの台湾の味「満漢大餐」のメーカーが、彼女の環島の様子に興味を持ち、あらためて映像を撮ることが決定したそうだ。旅の途中につぶやいた一言から始まったシンデレラストーリー。だが本人はいたって冷静に「わらしべ長者の気分」と、あっけらかんとしている。

面白いことが待っているかもしれないと何気ない気持ちで始めた台湾環島。しかしこの旅が台湾での新たなる扉を開いた。人生の伴侶との旅はもうすでに始まっている。

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墾丁の美しい風景。映像内では、彼女が旅した台湾各地の風景が見られる。
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ブレスタイプのお守りは旅の安全を願って自ら龍山寺で購入。その他は道すがら出逢った人からのプレゼント。旅を支えてくれた思い出の品であり、今でも大切に保管している。

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スーパーで偶然手に取った「満漢大餐」が旅の大切な食糧源&心の糧に。お気に入りは蔥燒牛肉麵味。パウチ入りの塊牛肉が「口の中でほろほろとほぐれる食感が好き♡」なんだとか。お湯は少なめに注ぎ濃いめで味わうのが千明流。満漢大餐は台湾で売れている牛肉麺で、アジア各国でも大人気。訪台観光客のマスト買い商品だ。

 

滿漢大餐とのコラボで再現した旅の映像はこちら!

 

取材・文:林綾子/写真提供:伊藤千明

(2018年2月号掲載)

 

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