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石知田 シー・チーティエン

瞳に宿る知性と才能

     期待度120%の新進俳優

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profile
1990年12月10日生まれ。25才。“台湾の東大”といわれる台湾大学在学中から短編映画に出演、2014年『軍中樂園』で長編映画デビューし、『五月一號』、『我的少女時代』に出演、台湾で公開中の映画『極樂宿舍』では主役、ドラマ『滾石愛情故事』の『鬼迷心竅』で主役。自らプロデュースした舞台劇『釵 CHAI PARTY』に主演するなど、クリエーター志向も強い。園子温、岩井俊二、是枝裕和、石井裕也、宮藤官九郎が好きという日本映画通。

台湾師範大学附属高校〜台湾大学というエリートコースから、たまたま大学2年の時に学内の映像制作に関わることになって演技に興味を持ち始めた石知田(シー・チーティエン)。『五月一號』(若葉のころ)と『軍中樂園』のオーディションを受けたことから俳優の道に進み、今年の夏休み映画『極樂宿舍』で初主役を務めた。『極樂宿舍』の初日、怒濤のプロモーション開始直前に取材したのだが、しっかりと自分を見つめる聡明さと時折見せるかわいらしさに、取材スタッフは皆、心を持っていかれた。

―『極樂宿舍』はコメディー要素の強い映画ですが、出演を決めたポイントを教えてください。

「僕がこれまで演じてきたのは文芸系の作品が多かったので、この脚本を読んだ時に演技の幅を広げられるのではないかと思いました。いろいろな役を演じてみて、自分はどういう役が向いているのか、どういう役がやりたいのかを探ることができると思ったからです」

―林世勇(ヒーロー・リン)監督との仕事はいかがでしたか。

「これは大学の寮を舞台にしているのですが、僕は寮生活をしたことがないので監督に『大丈夫ですか?』と聞いたら、『だからいいんだよ』と言われました。経験がないからこそ固定概念を持たない、寮生活でどんなことが起こるのかわからないから自由な発想で役に挑めるということですね。監督はアニメーションの世界からスタートした方で、これまでの監督とはまったくやり方が違いテンポが速いのです。例えば泣く演技の場合、涙が出てくるまでの心の動きを表してから泣くということが多かったのですが、監督はそういう“タメの演技”は必要とせず、ダイレクトに泣くという演出方法でした。それは新鮮でとても面白かったですね」

―でも、かなり戸惑ったところもあるのでは?

「最初はそうでした。でも監督によって価値感が違いますから、僕はそのさまざまな価値観を受け入れてその中に身を置いて演じることが必要だと思います。監督の描く世界を理解して信じることができなければ僕の演技は観客に伝わらないし、これはどうかな?と思うこともありましたが、それは僕の固定概念なのでそれを打ち破っていかないといけない、このキャラクターはこういう考えだからこういう行動なのだということを、その世界観の中で構築してうまく入り込んでいくという作業でした。今回初めての主役ですが、僕がそうしないと観客がこの物語に入り込めないですから、興行成績よりも観客に納得してもらえる演技ができるか、というのがプレッシャーでもありました」

―この主人公は建築を学ぶ学生ですが、ご自身が台湾大学で土木を専攻していたことで何か役に立った点はありましたか。

「実は土木よりも創造性の高い建築デザインに興味があって、3年生の時に別の大学で建築デザインを学んだことがあります。もともと卒業したら海外へ留学して建築家を目指そうと思っていました。ですから、監督とこの主人公は安藤忠雄のようなミニマリスト的建築ではなく、アントニ・ガウディのような有機物が生えていくような“生きた建築”が好きなタイプではないかと話しました」

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―個人的に好きな建築家や建築物は?

「ル・コルビュジエ、ルイス・カーン、クリストファー・レン、ザハ・ハディド、それからガウディも好きです。今年のはじめに京都に行ったのですが、京都は木造建築で茶道の概念を取り入れた茶室があったりして良いですね。逆に東京は安藤忠雄の表参道ヒルズのような哲学的なものが多く、伝統の京都と現代的な東京という対比は面白いですね」

―建築以外で大学時代の印象深い思い出を聞かせてくれますか。

「思い出深いのは、大学よりも高校時代ですね。それまで僕はオタクで、ゲームと勉強しかしていなかったのですが、高校に入って初めて部活を経験しました。ストリートダンスでパフォーマンスの楽しさを知り、HIP-HOPやR&Bを聞くようになって価値観が変わりました。先輩に五月天(Mayday)がいたので、学業だけでなくこういうエンターテインメントの道もありなんだと目からウロコで、こんな楽しいことがあることを知りました」

―映画にドラマに活躍が続きますが、これからどんな方向を目指しますか。

「いろいろな芸術に触れて自分を磨き、それで自分らしくなっていく……そんな俳優になりたいです。また、今年舞台の制作と主演をしたのですが、制作や企画に関わることが演技にも相乗効果を生みますから、機会があればクリエーティブなこともやっていきたいと思っています」

取材・文:江口洋子/写真:彭世杰/メイク:王霖/ヘアー:Zoe(Driven.by.)/衣装協力:Tender.S

映画『極樂宿舍』

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極樂宿舍 極樂は建築家を目指す大学生、初めての寮生活を謳歌していたのだが、突然古い男子寮取り壊しの告知を受ける。 なぜ男子寮だけ? 憤懣やるかたない彼らは、怒りの矛先を新しくてきれいな女子寮に向けて不公平を正そうと仕掛けるのだが、実は悪徳業者の土地乗っ取り計画だと知る。極樂たちは悪徳業者の企みを暴こうと女子寮とタッグを組み、大学を救うために立ち上がった……。笑いあり涙あり、恋と正義の青春映画。 公開:台湾公開中 監督:林世勇(ヒーロー・リン) 出演:石知田(シー・チーティエン)、洪晨穎(ホン・チェンイン)、劉俊緯(Lollipop-Fの阿緯)

(2016年9月号掲載)

 

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林書宇 – 自らの体験をもとに、喪失から再生までを描く

今年の台北電影節のクロージングを飾った『百日告別』は、『星空』から3年ぶりとなる林書宇(トム・リン)監督の新作だ。最愛の夫人を亡くし、自身の喪失から再生までの心の旅を映画という形で完成させた。愛妻が残した「映画を作り続けて……」という願いを受けて、自身の思いと客観性を見事なまでのバランスで脚本にし、こだわりの映像美で見る者の心の奥底を震わせる名作に仕上げている。インタビューでは、自らの百日に別れを告げたプロフェッショナルの監督がそこにいた。

―『百日告別』は監督ご自身の体験をもとにした作品ですが、製作までの経緯をお話しいただけますか。

「2012年の7月に妻が亡くなり、僕は初七日から週に一度山の上にある寺に通い読経していました。百か日が過ぎそれから7日目、つまり107日目から自分の心境を書き留めたものをプロデューサーに見せました。その時は映画にするかどうかは全く白紙でしたが、彼女は『書き続けてみれば』と言ってくれました。ただ、毎日書いていたわけではなく、鈕承澤(ニウ・ チェンザー)監督の『軍中樂園』の助監督をすることになったので、その合間に思いついたことを書き綴っていました。そして、前作『星空』の興行成績が良かったため、政府から新作に対して補助金が出るシステムがあるのですが、その脚本提出の期限が迫ってきたので、『軍中樂園』の撮影半ば、ほとんど重要な部分を撮り終わった時に鈕承澤監督にお願いして脚本を書くことに専念しました」

%e7%99%be%e6%97%a5%e5%91%8a%e5%88%a5-%e5%8a%87%e7%85%a7-3―この作品の登場人物の多くが監督の分身のように思えましたが、ご自身の思いと客観性との間で困惑したことはなかったですか。

「確かに僕自身の思いが強すぎたことはありました。そこはプロデューサーと常に話し合いながら軌道修正をしていき、特にヒロインの心情などは女性であるプロデューサーに意見を聞きながら書いていきました。この映画は僕の経験から発想したものですが、登場人物もストーリーもあくまでもフィクションです」

「大人」を演じられる人選

―キャスティングについてお聞きします。メインキャストの林嘉欣(カリーナ・ラム)、石頭(ストーン)を起用したポイントを教えてください。

「今回は大人の物語ですから、それに合う人選を心掛けました。林嘉欣はもともと素晴らしい女優だと思っていましたし、この役は気持ちを内に秘めた静かな女性という設定なので、彼女しかいないと思っていました。ただ、育児中なので果たして女優復帰するのかどうかわかりません。でも、とにかくあたってみようと思い脚本を送ったら、快諾をしてくれました。石頭は前作『星空』で中学校教師の役で出てもらいましたが、今回の役は葛藤が多く心の爆発力も必要だったので彼が良いのではないかと思いました。彼とは役作りについて本当によく話し合いました。そして『自分がこの男の立場だったらこうする』と、たくさんアイデアも出してくれました」

―かなり入魂の演技でしたね。

「そうですね。ある日現場に向かう途中、前を歩いている石頭を見つけたので一緒に行こうと思って近づいたら、もうすでに育偉(石頭の役)だったんですよ。ですから、声を掛けられず僕は別の道を通って現場に行きました」

名監督が編集サポート

―台北電影節での上映の後に、戴立忍(ダイ・リーレン)監督と鈕承澤監督のお二人が編集をサポートしたとおっしゃっていましたが、具体的に教えていただけますか。

「ラフができた時に、お二人それぞれに見てもらい、意見をお願いしました。鈕承澤監督は、細かいところがあるから編集室で作品を見ながらにしようということになりました。30分くらいいろいろ聞いていたら、突然僕に帰って少し休んでいろと言うのです。鈕承澤監督は自分が思うバージョンを作るから、と。そうしたら、なんと3日間編集室にこもって作業してくれました。戴立忍監督も同じように自分で編集してみると言われ、なんと6日間かけて作ってくれました。僕はその二人のバージョンを参考にしながら自分の編集作業をしたので、気の毒だったのは編集マンです。3人の監督の3つのバージョン作りに付き合わされたのですから。(笑)」

―台湾を代表する監督の皆さんの編集結果が楽しみですが、公開に向けてのメッセージをお願いします。

「『百日告別』は、10月8日に全台湾で公開になります。この映画は優しいけれど、つらく残酷な部分もあります。でも、皆さんに前向きな力を与えてくれる作品だと思います。ぜひ多くの方に見ていただいて、映画で得た力を家族や友達、周囲に伝えてほしいと思います」

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『百日告別』2015年10月8日(木)台湾公開  大規模交通事故で婚約者を亡くした心敏と愛妻を亡くした育偉、それぞれ大きな喪失感で呆然とした中で葬儀を終え、現実と向かい合わなければならなかった。悲しみと孤独、怒りで混乱するふたりは、初七日、35日、49日に山の上にある寺でひたすら読経する。一度は最愛の人の後を追うことも考えるが、育偉はピアノ教師だった妻の残務整理を、心敏は新婚旅行を予定していた沖縄へひとり旅立つ。そうして百か日を迎え、育偉と心敏は初めて山の上の寺で言葉を交わす……。
プロフィル
林書宇 – トム・リン: 1976生まれ。世新大学で映画を学んだ後にカリフォルニア芸術大学院に留学。鄭文堂や蔡明亮の助監督を務めながら短編映画を製作、2005年の短編映画『海巡尖兵』で国内の映画賞を数々受賞した。08年初の長編映画『九降風』(九月に降る風)は台北電影節で審査員特別賞、金馬賞ではオリジナル脚本賞を受賞、日本でも東京国際映画祭で上映された後に一般公開となった。11年には台湾の人気絵本作家ジミーの『星空』を映画化し、高い評価を受けた。

取材・文/江口洋子

2015年9月号掲載

(中文記事)

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