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八三夭 831 バーサンヤオ

クールなサウンドに時代の声を織り込む

取材・文:二瓶里美(編集部)/取材協力・写真提供:滾石國際音樂

台湾の国民的ロックバンド五月天(Mayday)の阿信(ASHIN)もその才能を高く評価する、新世代のロックバンド八三夭 831。バンドの結成が8月31日であることからその名が付いた。毎年8月31日前後に「生日趴」(誕生パーティー)と称するライブを開催しているが、昨年Legacy Taipeiで開いた生日趴のチケットは即完売。台湾最大の音楽アワード・金曲奬でのパフォーマンスをきっかけに、東京国際ミュージック・マーケット(以下TIMM)で日本初ライブも果たした。今、最も活躍が期待される話題のバンド・八三夭に最新アルバムについて聞く。

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左から、阿電(アーディエン) Drums、霸天(バーティエン) Bass、阿璞(アープ―) Vocals、小橘(シアオジュー)Leader/Keyboard、劉逼(リウビー)Guitar

台湾の若者が直面している問題がテーマ

―最新アルバム『生存指南』について簡単にご紹介いただけますか。

阿璞(アープ―)「これまでもずっと、その時代ごとの世の中の思いを反映しようと努力してきました。このアルバムのテーマは、台湾と中国の若者の世代交代。現代の若者が直面する問題はひと世代上の人たちとは違います。高学歴低所得、少子化、高齢化社会、貧富の格差など、背負わなければならない負担は重くなるばかりですが、それが若い人たちが直面している問題です。昔は仕事を頑張りさえすれば家を買えたけれど、現代の若者はまず仕事が見つからない。仕事が見つかったとしても(高くて)家を買えない。小さなころから必死に勉強して優秀な成績で学校を卒業しても、良い仕事が見つかる保証さえないんです。上の世代の人たちも経験のない問題に、この時代の若者は立ち向かわなければなりません。ですから、この時代の若い人が生きていくための教科書、生存ガイドのようなものになればとこのアルバムを作りました。条文のように長い曲名もありますが、一つの曲ごとがそれぞれ解説や手引っぽくなっている感じが皆さんに伝わればいいなと思います」
小橘(シアオジュー)「1曲目は『生存指南-使用說明』で、2曲目が『飢餓遊戲』(ハンガーゲーム)。最初に導入部があって、ハンガーゲームという映画感を感じてもらえるよう、この2曲は前後に並べ曲間の切れ目もありません。同様に最後の曲『世界上最危險的東西就是希望』も“世界で最も強大な力は希望”という感じを作り出したくて、その前には『黎明來臨前的夜晚總是最黑暗』(夜明け前の夜が最も暗い)という、歌詞がないインストゥルメンタルを配置しました。BGMのようなものですね」
阿璞「『黎明來臨前的夜晚總是最黑暗』は演奏のバックにテレビのニュースの音を流しました。注意深く聞けばネガティブなニュースだとわかります。例えば食品問題や教育改革の失敗、少子化など。生活が情報化の時代の中にあって毎日膨大な情報を注ぎ込まれ、外部のものに精神状態を悪化させられる。そういう雰囲気を作りたかったんです」
霸天(バーティエン)「音楽の面ではさらにはっきり“バンド”っぽさを出しました」

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―制作の過程について具体的に教えてください。

阿璞「実は多彩な要素を出したくて、少し前のアルバムでは電子音楽の要素を取り入れていましたが、今回は初めて小さなスタジオを作りそこで全曲収録しました。バンドの本来の音への回帰を中心に、編曲面では元々の編曲の考え方を捨て、できる限りシンプルで純粋な音作りをするという制約を設けて、以前用いたシンセサイザーのような電子楽器ではなく、違う方法で表現することに挑戦しました」
劉逼(リウビー)「今回は幸運にも台湾の文化部から音楽制作の補助金が出たので、弦楽器の大家・弦一徹さんやミックスエンジニアのCLA(※)たちとグローバルなコラボもできました」
阿璞「弦一徹さんは、これまでに椎名林檎さんやORANGE RANGEをはじめ、日本の有名な歌手と何度もコラボしている方です。日本のメジャーな歌手はほとんどコラボしたことがあるんじゃないかな」
劉逼「今回、アルバム制作中にちょうどTIMMのライブに出演する機会があったので、銀座にある彼のスタジオに行って現場で話し合いました」
霸天「厳格な方だと思っていたので、弦一徹さんにお会いする時は緊張しました。でも話してみるとユーモアがあってフレンドリーな方なので、お会いできてとてもうれしかった。それに先生は音楽に関してたくさんアイデアがあり、打ち合わせの過程ではその曲を聞いてどんなイメージが思い浮かぶか話してくれました」
小橘「弦楽器で1小節多めに弾いて、『君たちの曲にはここは必要ないとは思うけど弾いてみたよ』と選択肢をくださったこともありました」
霸天「考え方が僕たちとすごく合うんですよね。コラボできてとても心地よくてうれしかったです。ただ僕たちの日本語が下手という以外は何も問題なかったです(笑)」
阿電(アーディエン)「(日本語が話せる)劉逼がいてよかったよ」

―「乾啦 乾啦」は任賢齊(リッチ-・レン)と五月天の阿信がコーラスされていますね。

阿璞「作り終えた時、これは友達の歌だって感じたんです。僕たち他にほぼ友達はいないんだけど、阿信さんはこれまでずっとお世話になっている先輩でもあり友達でもある方なので、お願いしました。彼もこの曲をとても気に入ってくれて、さらに「この曲は任賢齊さんが歌うのが合う」と。任賢齊さんはアジアの歌王ですが、僕と小橘が以前彼のアルバムで曲を作ったこともあり、阿信さんがこの縁を取り持ってくれました。彼ら二人はロックレコードの大先輩でもあるので、コラボできて本当にうれしかったです」
阿電「僕の一番好きな曲。仲のいい友達全員と分かち合えるので、特に“乾啦乾啦” (飲み干そう、乾杯)というフレーズが気に入っています。日本と同じように、台湾もプレッシャーやストレスが多い社会。だから学校や会社で気分が浮かない時、そんな晩は友達を誘って一緒に “乾啦乾啦”と1杯。とてもいいリラックス法でしょう」

―このアルバムの中で印象深いフレーズを教えていだけますか。

小橘「一番ぐっときたのは『老媽最常說的十句話』の“直到她來看我們演唱會的那一刻才知老媽她始終懂得”です。コンサートに来てくれた母を見るまで、自分たちの気持ちを理解していないと思っていた――という、この歌のターニングポイントになっているフレーズは、自分が体験したことでもあるからです。昔バンドをやりたいと言った時、両親は狂ったように反対して、早く仕事を探せと叱りました。でもコンサートに来てくれた両親を見た時、自分を心配してくれていたんだなとやっと理解して、すごく感動しました」
阿璞「すべて感慨深いですけど……。曲目の順番を決める時、すごく時間をかけて『世界上最危險的東西就是希望』を最後に配置することにしました。最も抽象的で歌詞もあまりストレートではないけれど、想像すればその意味がわかります。最後は“在這個世界上最危險的東西不是痛苦絕望,而是我懷抱希望大聲的唱”(この世界で最も強大な力は苦痛と絶望ではなく、大きな声で主張する希望を持つことだ)という言葉で締めくくりますが、これこそアルバムのコンセプトであり僕たちのスピリットです」
霸天「僕が好きなのは『我不想改變世界 我只想不被世界改變』というタイトルです。成長の過程で社会は僕たちをこの世界に合うように変えようとするけれど、最初にほしかったものを諦めずに初志貫徹する、自己を貫き通すことは可能だと期待させてくれるからです」
劉逼「『飢餓遊戲』は社会の幅広い階層について触れていて、サビのフレーズは“不知為何 我要拼命 拼搏?”(どうして一必死に頑張るのか)です。実際たくさんの人が強制的に前に向かわされているけれど、どうしてずっと走り続けるのか本当はわからない。そんな今の若い人たちの心の声に満ちているので、とてもセンスがあります」

※CLA:アメリカの著名なミックスエンジニア、クリス・ロード・アルジ。ボンジョビ、マドンナ、ティナ・ターナーらの楽曲を手掛け、グラミー賞受賞でも知られる。

今年の目標は1万人規模のコンサート

―バンドを結成して14年、高校時代からずっと一緒に同じ道を歩いてこられたのですよね。

小橘「17歳の時に知り会ってから、ほぼ毎日会ってる。相当うざいですよ (笑)」
霸天「僕たちは元々同級生で仲の良い友達、今は仕事のパートナーです。時には言い合いもするけれど、お互いを思いやり、メンバーの意見に耳を傾けようとずっとやってきたのが、良かったのだと思います」
小橘「いい言葉があるんです。“一緒に仕事をする時も楽しい。それは真の友”」
阿璞「一緒に仕事をしてこんなに長くなると相棒に近い感じです。友達になるのは簡単だけど、仕事となると利益や仕事量の調整、気持ちもからんできます。お互いを思いやり、それぞれの個性を理解してコミュニケーションする――今までそれを維持してこられたのは、得難く尊いことだと思います」
阿電「小橘とは知り会って10数年になりますが、阿璞と霸天、劉逼とはバンドに入ってから知り会いました。最初はすでに10数年も一緒にやっている息ぴったりの4人の中にどうやって入ればいいのかと思いましたが、実際は割とすぐになじめたと思います。肩肘を張らず余計なことに首を突っ込まなければそれでいいんですよ。彼ら4人の暗黙の了解に寄り添うように」
霸天「メンバーは、みんな阿電に尊敬の意を示していますよ」
小橘「阿電が前にいたバンドはとてもキャリアがある先輩だし、彼は誠実に人に接しますから」
阿電「両極端なんですよ。確かに自分は付き合いやすい面がある一方、爆発しやすい地雷もたくさん持っています。空腹になるとすぐ怒る(笑)」
霸天「だから打ち合わせの時は食べ物をいっぱい用意して阿電を空腹にさせないようにするんです。そうすればイライラしませんから。相手が何を嫌がるのかを知っておく、これが長続きするための僕たちの付き合い方です」

―1回聞くだけで印象に残るメロディー作りが秀逸ですが、創作の際その点を特に工夫されているのですか。

阿璞「八三夭の音楽はずっと面白いと思える方向に向いていて、みんながすらすらと口から出るような歌だったらとても楽しい。でも全力でそうしているわけではなく自然にでしょうか。僕の脳内からそれをhook(釣り上げ)してhook(夢中に)させられたら面白い。例えばヒット曲『東區東區』は、“東區(ドンチュー)”という音がドラムの“ドンッードンッー”という音に似ていると感じたことから自然とできました。それに僕たちと同じ世代の人にとって東区はトレンドの聖地で、日本でいえば渋谷や新宿みたいな場所です。少し上の世代が若い時なら西門町ですが、僕たちは最初にバンドの練習を始めたのも東区ですし、街をぶらついたり夜遊びに行ったりした、同世代共通の記憶があるエリアなんです」

―今後の目標を教えてください。

阿璞「今年は1万人規模のコンサートをしたいです。まだ台湾でその規模のライブをしたことがないので、それが僕たちの夢ですね。多くのファンも期待してくれているので、今年中に実現させたいです。後は去年初めてTIMMに参加しましたが、日本はアジアンロックの聖地のため、日本の音楽祭にもっと参加したいです」
小橘「サマーソニックとフジロックフェスティバルにまだ行ったことがないので、この二つのロックの殿堂にはすごく行きたいですね」
霸天「短期的な目標はまず台湾で1万人規模のコンサートを開くこと。中期的には日本で1万人規模のコンサートを開くこと。長期的には世界で1万人のコンサートを開くことです」


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『生存指南』
2016年12月リリース。電子楽器を使用せず、本来の「音」への原点回帰を目指した渾身の最新アルバム。印象的な旋律に、若い世代へのメッセージを込めた歌詞が載った新世代の台湾ロック。「飢餓遊戲」「翻白眼」「廢話語錄」「我不想改變世界 我只想不被世界改變」「老媽最常說的十句話」「世界上最危險的東西就是希望」など全12曲収録。


profile
2003年に結成。メンバーは、リーダーでキーボードの小橘、ボーカルの阿璞、ベースの霸天、ギターの劉逼、ドラムの阿電の5人。阿電は初代ドラム担当の子瑜が抜けた後、13年に加入した。2008年に『拯救世界』でアルバムデビュー、2nd『最後的8/31』(12)、3rd『大逃殺』(14)、最新作は『生存指南』(16)。張惠妹、S.H.E、王力宏ら中華圏を代表するアーティストへの楽曲提供やコラボも多数。16年、音楽アワード金曲奬のほか、東京国際ミュージック・マーケット(TIMM)で初の日本ライブ出演も果たした。作詞、作曲の大半を阿璞が担当。


(2017年2月号掲載)

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