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●東京国際映画祭2015話題作『百日告別』(『百日草』)の、2017年早春、渋谷ユーロスペースでの公開が決定

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東京国際映画祭2015でチケットが即時ソールド・アウトした話題作『百日告別』(東京国際映画祭上映時の題名『百日草』)の、2017年早春、渋谷ユーロスペースでの公開が決定。

愛する人を突然亡くした時、人はどれだけの時間をかけて、どのように心の空洞と向き合い、いかに生き続ける気力を取り戻すのか—–。本作はトム・リン監督の実体験をベースに、普遍のテーマである“死=喪失”と“愛”をリアルに描いた作品。

主演は、結婚・育児休業後のカムバック作品となるカリーナ・ラムと、来年2月に武道館でのコンサートが決定した台湾のスーパーバンド【Mayday】のギタリストである(石頭)ことシー・チンハン。全編に流れるピアノ曲(ショパンのエチュード等)、台湾と沖縄の美しく優しい風景が深く心に染みわたる本作は、台湾金馬奨でカリーナ・ラムが最優秀主演女優賞を、シネマジアではタイガービア賞を獲得。

トム・リン監督のインタビュー記事(2015年9月号)はこちら

張書豪 チャン・シューハオ

デビュー10周年――ぶれない志

映画やドラマで主役を張るおなじみのスターがほとんど30歳を越えた台湾で、注目される新世代(20代)の俳優としてトップを走るのが張書豪。10代で金鐘奨の主演男優賞を獲得し、2012年には『BFGF』で台北電影奨の助演男優賞に輝き、同年の金馬奨でも助演男優賞にノミネートされた若き演技派だ。以前はテレビドラマも公共電視のシリアスな作品だけだったが、コメディーもこなせる振り幅の広さで最近は主演俳優不足のアイドルドラマでも重用されている。

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「初心忘るべからず」の俳優生活10年

―デビュー10年になりますが、振り返ってみてどんな10年でしたか。

「いろいろな役を演じることで経験を積み、それが血となり肉となる……キャラクターの中に入り込み、役を楽しむことが徐々にできるようになってきたと思います。俳優は演技が好きというだけでなく、プロとしての技術、人とどうやって関わっていくかが大事です。そういう初心を忘れずに情熱を持って学習し続けてきた10年といえるでしょうか」

―「初心忘るべからず」というのはとても大事だけど、それを持ち続けるのは難しいことだと思います。そのために心掛けていることは?

「実は、僕は高校に入った時に先輩たちからとても可愛がられて、ちょっと思い上がって天狗になってしまったので、学校中の皆から嫌われてしまいました。完全にはじき出されたのです。でも、高校2年のクラスで出会った皆は自分にチャンスをくれると言ったので、僕は態度や考え方を改めました。そしてクラスの中心的な存在となり、みんなと仲良く楽しい日々を送っていました。ところが、18歳の誕生日の前日に事故に遭いました。それは命に関わるような大事故でした。その時にクラスメートがお見舞いに来てくれたことが本当にうれしくて、輝かしい青春の日々での忘れられない想い出になりました。そして、卒業式で同級生の代表が『“莫忘初衷”(初心忘るべからず)という言葉を君に贈るよ』と言ってくれたのです。だから、その後どんな誘惑があってもクラスメートたちの気持ちがこもったその言葉が僕を支えてくれました」

―いいエピソードですね。かけがえのない想い出とその言葉を持ち続けて俳優として歩んできた10年で、いろいろな作品や役、監督との出会いがありましたが、ターニングポイントになったのは?

「ドラマの『那年,雨不停國(あの日を乗り越えて)』という作品です。八八水災(2009年8月台湾中南部から東南部を襲った記録的な水害)と呼ばれる台風で水害に遭ったその土地に行き、何もなくなってしまった所に立った時、言葉が出ないくらいの衝撃を受けました。そういう環境の中でヒロインに語るせりふに自分自身が感化されて、鳥肌が立つ思いでした。この作品はとても意義深い物語なので、俳優としての使命感が芽生えました。それから俳優としての取り組み方が変わり、その後の『GFBF』のゲイの役、『金孫』の農夫、『對面的女孩殺過來』など、キャラクターに入り込み同化することがスムーズにできるようになりました。そして、出会った多くの監督たちから良い影響を与えてもらいましたが、何といっても易智言(イー・ツーイェン)監督ですね。僕の会社の社長ですが、時に兄として、父として、俳優としてだけではなく、人間としての成長に必要な指導をしてくれます」

映画『百日告別』で特別なシーンへのチャレンジ

―そういう経験を経て、『百日告別(百日草)』では、少ない出番ながらとても重要な役で特別なシーンがありました。台湾の道徳観から受け入れられないという人が多かったとのことで、台湾での一般公開の時にはカットされましたが、監督は日本ではオリジナルバージョンでの上映にこだわり、東京国際映画祭ではとても評判が良く、行定勲監督もあのシーンを絶賛していました。実際に演じたあなたとしては、どのように考えて演じたのですか。

「あのシーンは、準備に二ヵ月かかりました。亡くなった兄のジャケットを着て、10秒くらいして涙が出る。すぐにではなくて、気持ちの発露まで少しの間があるという演技を見せたいと思いました。鏡を見て、兄が近くに戻ってきてくれたように感じて思いが込み上げ崩れ落ちる、思いがほとばしるという感情の表現をしたかった。そして、その後の義姉とのシーンは監督ともかなり話し合いをしましたが、絶対にいやらしさが出てはいけない、観客に二人が本当につらい気持ちで体を重ねるということを感じてもらわなければならない、そこがとても難しかったです。二人に共通する大事な人を失った悲しみは、誰にもわかってもらえない、世界中でこの気持ちをわかり合えるのは自分たちしかいない。二人はその時とてももろく、ある種の愛を必要としていた。それは恋愛ではなく、互いの喪失感を埋められるのは自分たちだけだという衝動ですね。そして、その行為は義姉にとっては最愛の人、弟にとっては兄を近くに感じるということだったのです。互いに理解し必要としていたもの、そしてその導火線は二人にしかわからない気持ちです。それを表現するのは本当に難しかったです」

―日本人のほとんどは、それを受けとめて感激したと思いますよ。

「ありがとう。でも残念ながら台湾の友達に聞いてもこういう気持ちはわかってもらえなかったです。抱き合う時でも、強く抱きしめるというのは、僕にはあなたが必要、あなたは僕が必要という表現なのです。抱き合って背中をなでるというのは愛の表現であって、このシーンはそういうことではない。とても深刻な何かが混乱しているというように見えなくてはいけないと思い、自分の頭の中で何度も何度も考えシミュレーションして演じました」

僕はアイドルではなく“俳優”

―さて、新作映画のお話を聞かせてください。『我們全家不太熟』では、授業中に電話で赤ちゃんを泣き止ますために必死でB−BOXを聞かせるシーンが本当に面白かったです。笑わせるための演技ではなく、真剣だから笑えるというのは脚本と演出、演技の力があってこそだと思います。

「これは脚本が良かったからでしょう。コメディーというのは、本人が一生懸命やっていることが周りから見ているとおかしい。だから、演じる時は、真剣にその場で起きていることに対峙しなければならないですね。そしてコメディーで一番重要なのはテンポ!」

―あのB−BOXがとても上手でしたが、相当練習したのですか。

「(笑って)一ヵ月授業を受けました。ものすごく練習したのだけど、この役はB−BOXの名手ということなので、先生にアフレコをお願いしたところもあります」

―では、最後に俳優としてのポリシー、これから目指すものを聞かせてください。

「いつも言っていることですが、僕はアイドルではなく“俳優”です。最初に話したように初心を忘れずに俳優として真剣に向き合い、意義のあることをやり、いろいろなものを発見していきたい、そして観客に影響を与えられるような俳優になりたいです。張書豪が出ているから見に行きたいと言われるようになるのが最終的な目標です」

プロフィル
1988年10月22日生まれ。06年ドラマ『危險心靈』でデビュー、07年にドラマ『畢業生–還好,我們都在這裡』で金鐘獎のミニドラマ部門の主演男優賞を獲得。映画は『1895』(08年)、『有一天』(10年)、『轉山』(11年)と立て続けに主演、11年の映画『GF*BF 』で台北電影節の助演男優賞受賞、『金孫』(11年)『對面的女孩殺過來』(13年)の主役、『百日告別』(15年)では助演ながら重要な役どころをこなし新作『我們全家不太熟』が公開中。主演ドラマは『あの日を乗り越えて~那年、雨不停國』(10年)、『悪男日記』(13年)、今年2月放送の『火車情人MEMORY』など。

 

Jimmy+++Studio
『我們全家不太熟』 公開:2015年12月31日より台湾公開中 出演:張榕容、張書豪、郝劭文、陳大天、豆寶 陳松勇、林美秀、許效舜、趙樹海、蔡黃汝(豆花妹) サイト:www.facebook.com/WeAreFamilyMovie

 

取材・文:江口洋子/写真:鐘政勇

(2016年1月号掲載)

 

 

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林書宇 – 自らの体験をもとに、喪失から再生までを描く

今年の台北電影節のクロージングを飾った『百日告別』は、『星空』から3年ぶりとなる林書宇(トム・リン)監督の新作だ。最愛の夫人を亡くし、自身の喪失から再生までの心の旅を映画という形で完成させた。愛妻が残した「映画を作り続けて……」という願いを受けて、自身の思いと客観性を見事なまでのバランスで脚本にし、こだわりの映像美で見る者の心の奥底を震わせる名作に仕上げている。インタビューでは、自らの百日に別れを告げたプロフェッショナルの監督がそこにいた。

―『百日告別』は監督ご自身の体験をもとにした作品ですが、製作までの経緯をお話しいただけますか。

「2012年の7月に妻が亡くなり、僕は初七日から週に一度山の上にある寺に通い読経していました。百か日が過ぎそれから7日目、つまり107日目から自分の心境を書き留めたものをプロデューサーに見せました。その時は映画にするかどうかは全く白紙でしたが、彼女は『書き続けてみれば』と言ってくれました。ただ、毎日書いていたわけではなく、鈕承澤(ニウ・ チェンザー)監督の『軍中樂園』の助監督をすることになったので、その合間に思いついたことを書き綴っていました。そして、前作『星空』の興行成績が良かったため、政府から新作に対して補助金が出るシステムがあるのですが、その脚本提出の期限が迫ってきたので、『軍中樂園』の撮影半ば、ほとんど重要な部分を撮り終わった時に鈕承澤監督にお願いして脚本を書くことに専念しました」

%e7%99%be%e6%97%a5%e5%91%8a%e5%88%a5-%e5%8a%87%e7%85%a7-3―この作品の登場人物の多くが監督の分身のように思えましたが、ご自身の思いと客観性との間で困惑したことはなかったですか。

「確かに僕自身の思いが強すぎたことはありました。そこはプロデューサーと常に話し合いながら軌道修正をしていき、特にヒロインの心情などは女性であるプロデューサーに意見を聞きながら書いていきました。この映画は僕の経験から発想したものですが、登場人物もストーリーもあくまでもフィクションです」

「大人」を演じられる人選

―キャスティングについてお聞きします。メインキャストの林嘉欣(カリーナ・ラム)、石頭(ストーン)を起用したポイントを教えてください。

「今回は大人の物語ですから、それに合う人選を心掛けました。林嘉欣はもともと素晴らしい女優だと思っていましたし、この役は気持ちを内に秘めた静かな女性という設定なので、彼女しかいないと思っていました。ただ、育児中なので果たして女優復帰するのかどうかわかりません。でも、とにかくあたってみようと思い脚本を送ったら、快諾をしてくれました。石頭は前作『星空』で中学校教師の役で出てもらいましたが、今回の役は葛藤が多く心の爆発力も必要だったので彼が良いのではないかと思いました。彼とは役作りについて本当によく話し合いました。そして『自分がこの男の立場だったらこうする』と、たくさんアイデアも出してくれました」

―かなり入魂の演技でしたね。

「そうですね。ある日現場に向かう途中、前を歩いている石頭を見つけたので一緒に行こうと思って近づいたら、もうすでに育偉(石頭の役)だったんですよ。ですから、声を掛けられず僕は別の道を通って現場に行きました」

名監督が編集サポート

―台北電影節での上映の後に、戴立忍(ダイ・リーレン)監督と鈕承澤監督のお二人が編集をサポートしたとおっしゃっていましたが、具体的に教えていただけますか。

「ラフができた時に、お二人それぞれに見てもらい、意見をお願いしました。鈕承澤監督は、細かいところがあるから編集室で作品を見ながらにしようということになりました。30分くらいいろいろ聞いていたら、突然僕に帰って少し休んでいろと言うのです。鈕承澤監督は自分が思うバージョンを作るから、と。そうしたら、なんと3日間編集室にこもって作業してくれました。戴立忍監督も同じように自分で編集してみると言われ、なんと6日間かけて作ってくれました。僕はその二人のバージョンを参考にしながら自分の編集作業をしたので、気の毒だったのは編集マンです。3人の監督の3つのバージョン作りに付き合わされたのですから。(笑)」

―台湾を代表する監督の皆さんの編集結果が楽しみですが、公開に向けてのメッセージをお願いします。

「『百日告別』は、10月8日に全台湾で公開になります。この映画は優しいけれど、つらく残酷な部分もあります。でも、皆さんに前向きな力を与えてくれる作品だと思います。ぜひ多くの方に見ていただいて、映画で得た力を家族や友達、周囲に伝えてほしいと思います」

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『百日告別』2015年10月8日(木)台湾公開  大規模交通事故で婚約者を亡くした心敏と愛妻を亡くした育偉、それぞれ大きな喪失感で呆然とした中で葬儀を終え、現実と向かい合わなければならなかった。悲しみと孤独、怒りで混乱するふたりは、初七日、35日、49日に山の上にある寺でひたすら読経する。一度は最愛の人の後を追うことも考えるが、育偉はピアノ教師だった妻の残務整理を、心敏は新婚旅行を予定していた沖縄へひとり旅立つ。そうして百か日を迎え、育偉と心敏は初めて山の上の寺で言葉を交わす……。
プロフィル
林書宇 – トム・リン: 1976生まれ。世新大学で映画を学んだ後にカリフォルニア芸術大学院に留学。鄭文堂や蔡明亮の助監督を務めながら短編映画を製作、2005年の短編映画『海巡尖兵』で国内の映画賞を数々受賞した。08年初の長編映画『九降風』(九月に降る風)は台北電影節で審査員特別賞、金馬賞ではオリジナル脚本賞を受賞、日本でも東京国際映画祭で上映された後に一般公開となった。11年には台湾の人気絵本作家ジミーの『星空』を映画化し、高い評価を受けた。

取材・文/江口洋子

2015年9月号掲載

(中文記事)

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