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神秘的な祭典、サイシャット族のパスタアイ

台湾北東部の新竹県と苗栗県の山間部に暮らすサイシャット(賽夏)族。人口6000人余りの少数民族。しかしながら、現在も伝統文化を色濃く残し、2年に一度、「パスタアイ」と呼ばれる祭典を催している。今年は10年に一度の大祭に当たり、11月中旬に開催される予定となっている。

取材・文:片倉真理/写真:片倉佳史(かたくらドットねっと)

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会場である向天湖は海抜738メートルに位置し、夜が更けていくにつれ、霧が濃くなってくる。

 

新竹県と苗栗県に暮らす少数民族

台湾は九州ほどの小さい島ながら、16の原住民族が暮らしている。それぞれが固有の言語と文化を持ち、伝統的な祭事が続けられている。台湾北部の山岳部に暮らすサイシャット族(サイセット族とも)は比較的早い時期から漢人文化の影響を受けてきたが、そのアイデンティティーは失われることはなく、今でも「こびと」の伝説に由来する「パスタアイ」という祭典を催している。
パスタアイは新竹県五峰郷大隘村と苗栗県南庄郷向天湖の2カ所で開催される。規模は大隘村の方が大きいが、屋台などが数多く出ており、やや観光イベント化されている。一方で、向天湖はより素朴な雰囲気を残しており、伝統文化の色彩が濃厚だ。今回はこちらを取り上げてみたいと思う。
パスタアイが開催されるのは旧暦10月15日前後とされている。具体的な開催日は長老たちの協議によって決まり、今年は11月11日、12日、13日に予定されている。

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パスタアイの歌は祭りが終わると歌ってはならないという。
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祭りの期間中は心を穏やかにし、人と争ってはならないという。

語り継がれる「タアイ(こびと)」の伝説

台湾に限らず、古今東西、「こびと」にまつわる伝説は数多く存在する。「こびと」という神秘に満ちた存在は私たちの想像力をかき立ててならない。台湾でも幾つかの原住民族の昔話に「こびと」は登場する。中でも、サイシャット族に残る伝説は興味深い。幾つかのストーリーがあるが、以前、筆者が向天湖に暮らす古老から教えてもらった話を紹介してみたい。
その昔、サイシャット族の人々は「タアイ」と呼ばれるこびとと仲良く暮らしていたという。タアイは身長が1メートルにも満たなかったが、賢い上に腕力が強く、かつ妖術にも長けていた。 彼らはサイシャット族の祖先たちに稲やアワの栽培法、病気の治療法などさまざまな智慧を授けた。また、歌や踊りが上手だったため、収穫祭などの際には共に豊作を祈願したりしていたという。
しかし、小さな誤解からサイシャット族の人々はタアイに敵意を抱くようになる。タアイはビワの樹の上で休む習慣があったが、人々はタアイがいない間にこの樹を斬りつけた。しばらくして、何も知らないタアイが登ったところ、樹木が倒れ、谷底へ落ちて死んでしまったという。
その後、サイシャット族は飢饉(ききん)と不作に苦しめられることになる。この時、タアイは二人の長老が生き延びたというが、彼らは「慰霊の祭り」を行うことを指示し、東の方角に去っていったという。その後、人々は彼らの霊を慰めるための祭事を行うようになった。これがパスタアイの始まりである。
ちなみに一般的に伝わっている話では、タアイとサイシャット族が仲違いした原因は、タアイが女性に手を出す悪い癖があったからといわれている。しかし、これには異説が多い。筆者が取材した古老もタアイは肩をたたいて友情を示そうと思ったが、彼らは背が低いため、女性のお尻に触れてしまったと語っていた。

夜霧に包まれた森に響く鈴の音

パスタアイの会場に到着したら、まずは魔除けの儀式をしなければならない。広場にある小屋でカヤが渡されるので、これを腕などの身体に結び付ける。カメラやビデオなどの撮影機材にも必ず付けること。これを忘れると霊に取り憑かれるといわれている。
パスタアイでは三日三晩、夜通しで踊りが繰り広げられる。老若男女が円陣を組み、時にはゆっくり、時には早足になったりしながら、休みなく続けられる。この際には物寂しげな曲調の歌が歌われる。この祭典は慰霊の意味を含んでいるため、アミ族などの豊年祭で耳にする明るい歌声とはかなり趣が異なる。
人々は背中に鈴の付いたリュックのようなものを背負っている。これはサイシャット族特有の楽器で、他の霊が入ってこないようにするためにこれを用いるという。深い霧に包まれた山間にシャン、シャン、シャンという鈴の音とお経のような歌声が響きわたる。かなり幻想的な光景で、圧倒されてしまう。
円陣のすぐそばでは逆三角形のカラフルな旗を担ぐ男性が目に付く。これは「舞帽」と呼ばれ、タアイが休む場所とされている。旗には「豆」や「解」、「夏」、「風」などといった文字が書かれているが、これはサイシャット族の氏姓である。 さらに、今年は10年に一度の大祭なので「大祭旗」も登場する。これは約5メートルの竹竿で、赤と白の布がくくり付けられている。祭典の期間中、会場の隅に真っすぐに立てられているが、毎晩踊りの途中で代表者がこれを持ち、会場を何周もする。これにより厄が消え、好運がもたらされると信じられている。

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祭典中、部族の者以外は参加できない(見学は可能)。

 

訪問する際にはルール厳守で

最終日の朝を迎えると、これまでとは一転して明るい雰囲気に包まれる。それまでは神妙な面持ちだった人々も晴れやかな表情に変わる。この日は小屋の上にかけられたカヤの葉を競って取り合うなど、タアイを東の方向へ見送る儀式が行われる。すべての儀式が滞りなく終了すると、最後にはお餅が配られる。
現在、パスタアイは一般の人たちでも自由に見学できる。ただし、参加する際には彼らの伝統や文化を尊重し、タブーやルールを厳守するようにしたい。また、深夜の山の上はかなりの冷え込みとなるので上着などを持っていくことを忘れずに。 原住民族の祭典の中でもとりわけ独特な雰囲気を持つパスタアイ。台北からも遠くないのでぜひ一度は体験しに出かけてみたい。

(2016年11月号掲載)


アクセス
在来線の台鐵に乗車し、竹南駅で下車。苗栗客運に乗車し、南庄まで所要約1時間。南庄から向天湖行きのバスに乗り換え、約40分。祭典期間中は臨時バスも運行。現地には民宿もあるので事前にご予約を。詳細に関するお問い合わせは苗栗県南庄郷公所(電話:037-823-115)まで。


 

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